天槍のユニカ



ある少女の懺悔−罪禍−(3)

 この人にも同じ思いをさせてしまうのだ、自分の力が及ばなかったために。
 ロヴェリーは眠っているキルルを気遣い、声を押し殺し震えながら泣いた。その静かな慟哭が胸を抉る。
「それでも間に合ったかは分かりません。強い疫病です。今日までにも多くの命を奪ってきた。治療法も、まだ分かりません」
 だから、キルルの容態に気づくのが遅れたことだけを責めても仕方がない。それに、どうしたって後悔には意味がないものだ。
 そんな冷徹な考えが浮かんできても、感情の抑えはきかなかった。
 ロヴェリーの背をさする手にぽたぽたと水滴が落ちてくるのに気がついたアヒムは、唇を噛む。
 見送りたくない、また、こんな形で。
 でも、もうなす術がないのだ。


 ユニカのことを頼みますね、という言葉が、ロヴェリーにいくらか気力を取り戻させたようだった。
 彼女はキルルの家に運び込んでいた自分の荷物をまとめ、とぼとぼした足取りではあったが、まっすぐに教会堂――アヒムや自分の家がある方を目指して歩いて行った。
 夕暮れの中にその後ろ姿が見えなくなるのを確かめてから、アヒムはキルルの枕元に戻った。
 熱を出して寝込んだキルル。そんな彼女についてやっている自分。出来ることはない。もう、アヒムは子供ではないはずなのに。
 寝室へ運び入れたテーブルの上には、解熱や解毒の作用があるハーブ類、その抽出液を並べてあった。傷につける膏薬もある。増えて破れていく発疹が化膿しないようにと思って用意したものだった。
 しかし滲み出る体液の上から薬を塗っても、洗い流されてしまうだけだった。
 アヒムはキルルの額に乗っていた手ぬぐいを水に浸して冷やし直し、首筋や頬の汗をふいてやった。すると、布が湿疹に触れて不快だったのか、キルルはかすかに呻きながら目を開ける。
「……ごめん、痛かった?」
 弱々しく宙を見上げるキルルの視界に入るよう身を乗り出すと、彼女はアヒムの姿を見つけてほのかに笑みを浮かべる。

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