ある少女の懺悔−罪禍−(4)
アヒムはこれまでと違ったその様子にはっとなった。
「どうしたの? どこか苦しい?」
毛布の上に投げ出されていたキルルの手を握る。ごくわずかに動いた彼女の親指が、そっとアヒムの手の甲をさすり返した。それから、ひび割れた唇がうっすらと開く。
「あ、ヒム……あた、し……」
ほとんど吐息だけで発せられた言葉を聞き逃すまいと、アヒムはキルルの口許に耳を寄せた。
ふ、ふ、と浅く苦しげな呼吸がアヒムの頬を撫でた。死者のにおいがする。都で幾度もかいだにおい。
「もう、しぬ、のね」
そして、それを一番に感じているのは、いつでも床についている病の者当人だ。
「……大丈夫だよ、私が治してあげるから」
分かっている者≠ノ対しては、益体もない嘘。しかしいつもと違い、その嘘は一瞬の躊躇もなく口にすることが出来た。
こんなに簡単に偽りを述べた自分に驚きながら、アヒムはキルルの手を強く握る。
「うそ……」
けれど、返ってきたのは、見透かして諦めた笑顔だった。
嘘じゃないよ、と続けることは出来なかった。キルルの表情がそれを望んでいなかったから。
「ごめ……ね」
「……どうして謝るんだい?」
「こまらせて、ばっか、り、ずっと……」
いくらか呟いただけで、キルルはどっと疲れたようだった。大きく息を吐き目をつむった様子は、背に負っていた荷物をすべて下ろすかのようで。
最後の最後、本当に一人になって消えていこうとしているようで。
赦してほしいのは、今やアヒムの方だった。
とりこぼしたものをもう一度すくい上げることがあたわないことを知り、彼は静かにキルルの手を放した。
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