ある少女の懺悔−魔風−(19)
「キルルの具合はどうなんだ?」
「なんともいえないというのが正直なところです。話を聞いたところ、発熱してから発疹が現れるまでの日数が聞いていたより少し短い。それがよいのか悪いのか分かりませんし――」
「何日も一人にさせておったしな……」
「……はい。衰弱していたのも間違いありません」
キルルの親が死んでから、彼女は初めアヒムの家に引き取られた。
しかしアヒムの母がまもなく死に、面倒を見てやることが出来なくなったのでその後は村長の家に預けられている。
それから、アヒムが都へ出た二年後にキルルが一人で住まいを構えるまで、村長夫妻が親の代わりだった。
村長が悄然としているのは、キルルの異変に気づいてやれなかったからだ――アヒムと同じように。
「家内も世話にいくと言っておったが……」
「いえ、接触する人間は限った方がよいでしょう。アリーセさんは女性達の世話役で人と会うことが多いですし」
村長の夫人も、病のキルルを数日にわたって放っておくことになってしまいさぞ気落ちしているに違いない。
「そうか、そうだな……」
聖堂の隅に溜まった闇を茫洋と見つめた村長は、そう呟くと白い髪の目立つ頭を抱えこんだ。
アヒムはその隣に腰を下ろし、震えていたキルルにするのと同じように村長の背中をさすった。
この人も、多忙な父に代わりアヒムの面倒を見てくれた家族の一人だ。
むしろ、村人の中にはそんな家族≠ェたくさんいた。みんな愛しい人達。
「とにかく、病が村へ入ってきたことに違いはない。こんな田舎にまで入ってきたほどだ。どこへ逃げても同じだろうし、家や畑がある以上どこへ逃げることも出来ん」
「ええ……」
村長の言葉に頷いたのか、ただうつむいたのか、自分でも分からない。
しかし、膝の上で握った拳に、大切な者達の運命も握ることになったことだけは確かだ。
この村だけでなく、シヴィロ王国の決して狭くはない地域がこの危険にさらされている。
だからきっと助けの手が動く。その時まで、皆を、ユニカを守れればいい。
それまでを耐える闘いになるだろう。
そして、どうしても間に合わないと思った時は――
思い浮かんだ友人の顔を打ち消し、アヒムは拳に力を込めた。
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