ある少女の懺悔−罪禍−(1)
第8話 ある少女の懺悔−罪禍−
夕暮れ間際のわずかな時間、キルルが横になっている部屋の窓を開けて風を入れる。その時に彼女の顔を照らした残照はひどく赤かった。
一日ぶりに光を感じたキルルはうっすらと目を開いたが、ひび割れ、一部がただれた唇から声が発せられることはない。ただぼんやりと、熱で朦朧とする視線をアヒムに向けてくるだけだった。
「キルル、お薬をお飲み」
ほんのりと湯気の立つ器を持ったロヴェリーが寝台に腰掛け、重ねて高くした枕に沈むように身体を預けたキルルの口許へスプーンを運ぶ。
アヒムはまるで役に立っていないその液体を苦々しく睨みつけ、自分への怒りとやるせなさを潰すように拳を握った。
キルル肌に現れた発疹は、頬や首筋、胸元にも腕にも背中にも広がり、破けて、滲出液のにじむ痛々しい傷に変わっていた。いくら肌着を換えてやっても汗と体液がそれを汚し、乾いてはまた肌を引っ掻く。
瞼の充血もひどくなり、腫れていた。血の涙が末期症状の一つだという。やがてそれも現れるであろう。
それでもキルルにはまだ意識があり、ロヴェリーが与えてくれる薬を少しずつ啜っていた。しかし、その様子に気力は感じられず、ロヴェリーを安心させるためになんとか喉を動かしている、そんな様子だった。
現にロヴェリーは、キルルがいくらも薬を飲むと頬をゆるませほっと溜め息をつく。
けれどもう意味がない。
アヒムは二人をどこか遠くから見つめる心地だった。
それから、まだ力強い夕陽の光を頼りにキルルの具合を診たアヒムは、火酒で手から肘までを丁寧に拭きながら低い声で言った。
「ロヴェリーさんはもう家へ戻ってください。この家から出る前に手や肌をよく清めて、今日まで着ていた服はすべて燃やして処分するのを忘れないでくださいね」
ロヴェリーは薬を入れていた器とスプーンを火酒で磨いていた。その手を止めた彼女は、呆然と目を瞠りながらアヒムの背中を見る。
「……諦める気なのかい?」
絞り出された声には批難の響きが満ちている。
アヒムは手を拭き終えた布を革袋の中に捨て、けれどもすることがなく、そのままキルルの枕元に立ちすくむ。
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