ある少女の懺悔−魔風−(18)
「それは分かってるさ村長! だけどなぁ……!」
「準備だ。備えをするだけだ。そうだなアヒム」
こちらを見つめてくる村長の目は「ただ頷けばいい」と言っていた。そして、その目はエグモントとほかの区長達の間に生じた亀裂を感じ取っている。
長くこの村の面倒を見てきた彼の持つ意気に押され、アヒムは狼狽えそうになったことを悟られないようゆっくりと頷いた。
「ええ、そうです、エグモントさん。今すぐの話ではありません。けれどこの先何人もの患者が出てから用意していたのでは遅いのです。不安になられるのはよく分かります。子ども達が間違って近づかないよう工夫しましょう。その時間は十分あるはずですから」
エグモントは不満そうだったが、この場の誰もアヒムと村長の提案に意義を唱えなかった。
当然だ。皆、我が家の近くに病人を寄せ付けたくないのだ。
エグモントは皆が黙っている理由を分かっている。だからこのまま彼らを解散させてはいけない。そのわだかまりを抱えさせて帰してはいけない。
「療養所の第二、第三の候補も決めておきましょう。それから看護に当たっていただく人も。もちろん主な治療は私が行います。でも、それだけでは患者はよくなりませんから」
平等に負担を課すことはどうしても必要だ。皆で協力するための役割分担もあらかじめ決めておくのがよい。
しかし、まるで不満をひとところに集中させないための処置のように聞こえて、アヒムは自ら発した言葉に眉を曇らせた。
エグモントにも、ほかの区長達にも、あとから個別に会ってきちんと不満や不安を聞く必要があろう……。
それからどうにか話をつけ、区長達が教会堂を去ったあと。
アヒムは聖堂の中の灯りを一つ、二つと消しながら、まだ帰ろうとしない村長の様子を気にしていた。
「村長、もう祭壇の灯も落としますよ」
「ああ……」
疫病への対応を議論したというより、一方的に指示を出しただけのような会合を思い出しているのだろう。
話し合いの最中は毅然としていた村長だが、今はまたキルルの病の第一報を聞かされた直後のように肩を落としていた。
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