ある少女の懺悔−魔風−(17)
しかしこの小さな村で、村人同士が皆家族のようにつき合うこの村では、それも最小限に抑えられると考えていたのに。
キルルの病を見つけてくれたロヴェリーが冷静にアヒムの指示に従い、更には自らキルルの世話をすると申し出てくれたから期待したが、甘かったようだ。
「村の跡地という選択はあり得ませんが、今後患者が増えた時は一カ所に集め手当をするのは確かにいい方法です。南西区に広めの空き家があったはずですね、エグモントさん」
「お、おう」
努めて声を穏やかに言ったが、背中で聞いた返事はやはり歯切れが悪い。アヒムは気づかれないように小さく溜め息をつきながら振り返った。
「そこを一つ目の療養所にしましょう。明日から掃除を始めて簡易のベッドもいくつか作って――」
「おいおい、療養所って、まさかそこに病人を入れるのか?」
「そうです。近くに今は使っていない井戸もあります。水場を切り離せるのもこうした病の時には有効な感染の予防法なんです」
「いや、待ってくれ。それは困る。うちにはまだ五つのちびがいるんだ。病人がいることなんて分からずにそこに近づくかも知れない」
エグモントの口調には抑えきれない必死さが滲んでいた。そしてそれは、ここに集まる男達の中にあった一つの留め具をまた外した。
気味の悪い沈黙が這う。言葉を発すれば、次は自分に水が向けられるという警戒感が張り詰める。
「あ、空き家なら、ほかにもあるだろう! 何もうちの区じゃなくたって――」
まずいことを言ったという自覚はあるのだろう。しかし彼は止まらなかった。身を乗り出して叫んだエグモントだったが、ほかの区長達はさっと顔を背けた。
しまった。
アヒムは、彼らの間に瞬時に薄い壁が出来たのを感じた。慌てて口を開く――が、アヒムの声が響くより先に村長がドンと床を踏みならした。
「それを言っていてはいつまでも話がまとまらん」
「し、しかし……」
「エグモント、まだ病に罹ったのはキルルだけだ。あの娘は丈夫だしアヒムの薬が効いたらすぐに元気になるだろう。ここで決めたいのは、今後患者が増えた時のことだ。今すぐお前のうちの近所に病人が押しかけてくるわけではない」
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