天槍のユニカ



昔語りの門(3)

     * * *

 ユニカ達は僧侶に案内されるまま大聖堂の奥から続く柱廊を渡り、高僧達の執務室が集まる棟へ通された。
 石材を積んで造られた建築物は聖堂に負けないほど豪奢な彫刻で飾られており、どこか王城の廊下とも雰囲気が似ている。
 僧侶の住処といっても、ここはある意味国の頂点。ユニカにはその実態を想像することも出来なかったが、ここに住んでいる高僧達は、いわば政(まつりごと)の世界の官僚や大臣にあたるのだろうと思った。
 現にこれから会おうというパウル導主は、このたび国教を守る十二人の大導主の一席に座ることになったお方だ。幼い頃にペシラで合った時とは比べものにならないほど位が高くなっている。
 どんな態度で会えばいいのだろう。ヘルミーネから特別指導されなかったということは貴族達に対するのと同じ作法でよいということだろうか。ちゃんと聞いておくのだった。
 そうは思うがもう遅い。きらきらしい装飾の扉が開き、応接間の中へ入るようすすめられる。
 温かい空気とお茶の香りがユニカを誘うようにふわりと漂ってきて、再会の準備がすでに整っていることが分かった。
 暖炉の前に向かい合わせで置かれた長椅子にはヘルミーネとカイが座っている。そして彼らの向こう側の席に、髪も口ひげも真っ白な老僧が腰掛けていた。
 ああ、と歓喜のにじむ溜め息をもらし、彼は杖を頼りに立ち上がった。すぐ傍に控えていたエリーアスに支えられ、少し足を引きずりながらもこちらへ向かってくる。
 後ろで扉が閉まるのにも気づかないほど、ユニカはその老僧に見入った。
 記憶の中にある姿より小さくなっている気がしたが、何者も拒まない、おおらかな眼差しは昔のままだった。
 ペシラで会った養父の師だ。エリーアスに騙されたユニカが、その口ひげをバターのクリームだと思い込んでしまったあの僧侶。
 半ば呆然としているユニカ、そして隣に並ぶディルクの顔を順々に見つめ、老僧は深くこうべを垂れた。
「王太子殿下までお越しくださるとは。新年のご挨拶を弟子に任せたのみで申し訳もございません」

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