天槍のユニカ



救療の花(4)

(休みの間に何かあったのかしら)
 こちらも色々と、本当に色々とあったので、いらだっているのはお互い様だ。
 エリュゼに支えられながら部屋に戻ったユニカは、勧められるままヨーグルトの入った器を手に持った。
「ご無理のない程度にお召し上がりください。一口でも、必ず」
 テーブルの前には見張るようにエリュゼが立っている。ユニカは仕方なくヨーグルトを啜った。
 これだって、本当は呑み込むのにとても時間がかかる。
 しかしユニカも意地になって、スプーンで四杯、五杯とヨーグルトを口に運んだ。これでいいだろうといわんばかりに器を突き返すと、意外にもエリュゼは微笑んだ。
「テリエナ、シーツは変え終わっている?」
「はい」
「ではユニカ様、ベッドへどうぞ」
 もとのように事務的な声音と表情に戻ったエリュゼが手を差し出してきた。呆気にとられながらもそれを表へ出さないように、ユニカはその手を借りる。
(ああ、思い出した)
 エリュゼの口出し≠ェ多くなることは今までにも何度かあった。
(毒入りの夕食を私が食べた時ね)
 または茶葉に毒が仕込まれていて、気がつかずにユニカが飲んでしまった時。ユニカの刺繍針に毒が塗りつけられていた時。
 ユニカが体調を崩すと、エリュゼの働きぶりは途端に侍女らしくなる。
(何か知っているのかしら)
 ユニカは侍女の横顔を窺ったが、やがて仄暗い笑いをこぼし、考えるのをやめた。
 誰が敵でもいい。ユニカはひたすら待つだけだ。王の治世を見つめながら。
 寝室に入り、ようやく寝台へたどり着いた時だった。
「ユニカ様は!? お風呂から戻っていらっしゃる!?」
「え? うん、もうお休みになるみたいだけど。あ……っ!」
「お待ちください、今取り次ぎますから……!」
 どこかへ使いに出されていたフラレイが戻ったらしい。何か慌てているようだが、その甲高いがエリュゼの気に障ったようだ。彼女は眉間にしわを寄せた。
「いい、急いでいる」
 二人を叱るため主室へ出て行くエリュゼに、あとは任せればいい。そう思って横になろうとしていたユニカはびくりと身体を強張らせた。

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