天槍のユニカ



かえれないひと(1)

第4話 かえれないひと


 昨晩の宴の気配を残したエルツェ公爵家の屋敷で、ユニカは初めての朝を迎えた。
 ディディエンに起こされ身づくろいを済ませると、宴の会場でもあった広間へ連れていかれる。
 屋敷に泊まっていた親族達とともに朝食をとり、彼らを送り出すところまでがユニカの役目だった。
 アルフレートがすすめてくれた薔薇のジャムのビスケットはほのかに甘い香りと薬のような爽やかな酸味で美味しかったし、親族達の視線は昨晩ほど刺々しくはなかったので、さほど苦に感じる時間にはならなかった。
 皆そそくさと食べるものを食べ終え、部屋へ戻って支度をするとさっさと屋敷を出ていった。そんな印象だった。
 どうやら、ユニカと一緒に公爵夫妻が踊ったことがなんらかの効果を発揮しているらしい。
 二人が――特にテオバルトがあんなふうにユニカを庇ってくれるとは思っていなかったので、隣に立って馬車を見送るこの男にいったいどんな顔を向けていいのか分からない。
 公爵はユニカの視線に気づいていたと思うが、そんなことはおくびにも出さず、最後の親族を乗せた馬車が敷地の門を出て行くのを見送っている。
 今日、ユニカはグレディ大教会堂を訪ねることになっていたが、公爵は同行しない。王城でウゼロ公国の使節を交えなにがしかの大切な話し合いをするのだとか。
 彼が来ない代わりに嫡子のカイとヘルミーネがユニカに同行する。
 そして公国の使節と王国の貴族の間で話し合いがあるということは、ユニカに同行出来ない人物がもう一人いた。
「いや、帰りたくない」
「こういう時だけ可愛いふりをしても無駄だ。さっさと馬車に乗れ」
「何よ、ユニカと仲直りできたらあたしは用済みってわけ!? 街を歩くのに協力してあげたし一緒に怒られてもあげたのに!」
「分かってる分かってる。助かったよ。ただ次のお前の仕事が城で開かれる会議に出ることなだけだろう」
「どうしてディルクは出ないのよ!!」
「俺の担当する仕事じゃない」

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