家名(30)
それゆえ断る理由を探して妻に相談したのに、彼女は一切嫌がらなかった。
それどころかユニカを引き取ることが決まってからというもの、彼女は少しずつ義妹が少女時代を残していった部屋の手入れを始めた。義妹や自分が未婚の頃に着ていたドレスの寸法も、ユニカに合わせて直せるものは直したりも。
傍目にも楽しみにしていることが分かった。
「ユニカはツェンのようになれるかな」
「難しいでしょう。旦那様がそう期待なさるお気持ちも分からなくはありませんが」
「期待なんて、そんなご大層な」
「ですが、なれるかどうかより、なっていただかねば困ります。わたくしたちの娘にすると決めたからには」
お飾りの王妃とするには目立ちすぎるユニカ。ならばその輝きに見合った重さを身につけるしかない。
「教育するのは、母親となる君の役目だよ」
「心得ております」
ヘルミーネは珍しく微笑をこぼした。夫であるテオバルトにはあまり見せてくれない表情である。
この妻は彼の友人である王と同じ人種で、己の使命感や責任感を食べて生きているのだと知ってはいても、
「そんなに嬉しそうな顔をされると、さすがにちょっと妬けるよ」
またほのかに笑ったヘルミーネの身体をくるりと回しながら、テオバルトは広間を眺めた。
公女を相手に踊るカイと、ユニカと王太子の様子を確かめる。
すると、手を繋いだ男女がもう一組、広間の中央へ進み出てきた。続いて一組、もう一組と、寂しかったその場に華やかな衣装で色を添えるカップルが現れる。
それでいい。王家と結びつくことに関しては、一族は一つになっていなくてはならない。
そしてその中心にいられるのは、少年時代から王に可愛がられており、またリーゼリテ王女の曾孫にあたるテオバルトだけ。
彼が決めたのだから、一族の者達もユニカをエルツェ家の姫君と認めて当然だ。
しかし、この場は親≠ニなるテオバルトとヘルミーネが繋いだが、これより先はユニカ自身にも力が必要だ。
彼女が引きずり出された舞台は、この広間より遙かに広いのだから。
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