天槍のユニカ



家名(29)

 名前を挙げられたのは王太子だけだったが、彼女の冷たい怒りの原因はそれだけでないことなどすぐに分かった。
「君は、本当にユニカのことが気に入っているんだねぇ」
 二人で、危なっかしくひらりひらりと回っている王族の二人を横目に、テオバルトはヘルミーネの手を取る。
「カイ」
 そうして夫婦で手を取り合ったまま、レオノーレに捕らえられている息子の許へ行く。
「公女殿下を誘って、お前も来なさい」
「はい」
 母に似て少し神経質なくらい生真面目に頷き、彼は自分より背の高い公女に向き直ると恭しく腰を折った。
 父母の意図を正確に読み取っているというよりは、カイもヘルミーネと同じ気持ちだったのだろう。
 王太子の妹姫を輪舞に誘う息子の姿は最後まで見届けず、公爵夫妻はともに音楽の中へと歩いて行った。
 さわり、と親族達がどよめく気配。
 二人は大げさなくらい慇懃にお辞儀を交わし、身体を寄せ合い、曲の初めから一緒に踊っていたかのようにステップを踏み出す。
 ユニカが驚いてこちらを見ているのは分かったが、二人ともあえて彼らの方を見ることはしなかった。
 ただ淡々と、クラヴィアとフィドルの音色に合わせて衣装を翻す。
 見世物ではない――当主夫妻が割り込んだことで、悪意を込めてユニカに向けられていた視線が気まずそうに逸らされていく。
 こんなふうに庇うつもりはなかったのに。
 テオバルトは腕に抱えた妻を見下ろし、その強い光を宿した瞳で逆にこちらを覗き込まれてやれやれと肩を竦めた。
「これで満足したかい?」
「ええ」
 短く言葉を返し、ヘルミーネはつんと視線を逸らした。
 ユニカを引き取ることについて、テオバルトは正直気乗りしなかった。扱いが難しすぎる、これこそ諸刃の剣だと思った。

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