天槍のユニカ



家名(18)

「問題しかないだろ。お前こそちゃんと見合いを――」
「とにかく、クリスは王族の女を嫁に貰えるほどの大貴族よ! プラネルト伯爵には強くおすすめするわね」
 ディルクの言葉を遮ったレオノーレはユニカの身体をぎゅうと抱きしめて力説してから、お気に入りのカイの許へ戻っていく。
 ちらりとクリスティアンを見上げれば、彼は溜め息をつくディルクを見下ろし苦々しい笑みを浮かべていた。
 彼から言うことはないのだろうか。そう思っていると、ユニカの隣でアルフレートが身を乗り出した。
「僕も、エリュゼとテナ侯爵にご縁があったら嬉しく思います。だって、テナ侯爵はメヒトブラルの重騎兵四千騎を率いておられる方でしょう? そんな騎士殿と同じ一族になれるなんて。僕も見てみたいな、そんな大軍が敵を踏み潰すように突撃するところ」
「アルフ、不謹慎だぞ。戦はゲームじゃないんだ」
 目を輝かせていた少年は叩くような兄の叱責にしゅんとなり、上目遣いに恐る恐るクリスティアンを見た。
「カイ様の仰る通りです。それからもう一つ。アルフレート様が仰るのは我が父のことでしょう。メヒトブラル騎士団――我が領邦の戦士たちは私の誇りでもありますが、私はそのすべてを率いるほどの権限を持ちません」
「でも、テナ侯爵は、もうテナ侯爵≠ナしょう? トルイユが攻めてきたら、お父上と同じように騎士たちを率いて戦に出るのではないのですか?」
「ウゼロでは、爵位と軍の中での権限はまったく別物ですので。今の私はレオノーレ様麾下のいち騎士に過ぎません」
「ん……よく分からないけど、公国の騎士は難しいんだね。じゃあ誰がメヒトブラルの騎士達に命令するの?」
「フフ、あたしは命令できるわよ。クリスに騎士団を率いよって言うこともできるし」
「本当ですか? 公女さま、すごい」
 クリスティアンを見つめていたアルフレートは身体ごとレオノーレを振り返る。
 少年の肩越しにちらりとディルクが見えたが、彼は自然な瞬きを装ってユニカから視線を外した。
 何ごともなかったように葡萄酒を飲むその姿に、ユニカの中に少しの驚きと困惑が湧いてくる。
 どうして顔を逸らされるのだろう。いや、私も目を合わせないようにはしていたけれど。

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