天槍のユニカ



家名(17)

「嫌か?」
「嫌も何も、驚いているだけですが……急なお話ですね」
「遅かれ早かれエリュゼは夫を迎えて爵位を譲ることになる。だったらちょうどいいだろう。家格も釣り合うと思うぞ。王家の血を引く旧家と、公国の建国時代から続く武門の名家」
「なるほどね、これでクリスにはシヴィロ王国の爵位をあげられるってわけ。よかったじゃない!」
「さっきも言ったが無理強いはしない。エリュゼも即答はしてくれなかったしな。少し二人で話をしてからでも……。ただ、政略的にもいい話だとは思う」
 悠然と構えるディルクの本音は、最後の一言とレオノーレが先に叫んだ言葉の二つに尽きるのだろう。
 機嫌よく友人の騎士を見上げる彼の横顔を、ユニカはちりちりと炙るように睨んだ。
 それでエリュゼは泣きながらどこかへ行ってしまったのだ。きっと、自分の立場と思いが相容れないことに耐えかねて。
 カイが驚いていないところを見るに、きっと先ほどの言葉は王太子の提案に頷けという意味だったのだろう。
「怖い顔をしないでよ、ユニカ。もしかして無理矢理結婚させられるなんて可哀想だとか思ってる?」
 大きな声でディルクを睨みつけていたことを暴かれたユニカは、慌てて彼から顔を逸らした。
 ディルクの代わりに、今度は悪びれもなく笑っているレオノーレを上目遣いに睨む。
「貴族の結婚なんてそんなものだし、クリスは顔も性格も家柄もいい超優良物件よ。公女であるあたしとの話もあったくらいなんだから」
「え……?」
「すぐに断ったけどね。お互いに知りすぎた仲で嫌だったし、こんな完璧な男と一生一緒にいなきゃいけないなんて息が詰まってやっぱり嫌。完璧すぎるし小言が多いの」
 レオノーレがクリスティアンを受け付けなかった理由に興味はなかったが、勝手に説明して勝手にユニカにしなだれかかってきた彼女は、その肩に頬を載せてにやりと笑いかけてきた。
「クリスが小言を言うのは、お前の振る舞いに色々と問題があるからだろう」
「問題? どこに問題があるっていうのよ。ちゃんと外交≠竄チてるわ。王家のユニカとこんなに仲良しになってるんだから」

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