
くれ惑い、ゆき迷い(17)
ユニカは王家の身分を棄てる身だ。けれどディルクはこれを贈ってきた。これからもこの青金を身に着けられる身分に――自分の隣に呼び戻すという意思表示にほかならない。
これを身に着けてしまえば、彼のその意思を受け入れることになるのではないか。
そんな懸念も思い浮かぶし、何より、呆れる。
(まだ諦めていらっしゃらないのね……)
呆れるし、余計分からなくなった。
もう自分からは触れないと言ったのだから、ユニカが拒み続ければこのアクセサリーだって、二度は蹴った彼の求婚だって意味がなくなるではないか。
ユニカが黙るのを承諾と受け取ったヘルミーネは、女中の手から矢車菊の首飾りを取り上げた。そして、湯舟で磨き香油で艶を出したユニカの胸元に青金の連なりを載せる。
「今は王太子殿下の思惑を考えぬこと。毅然としていなければ足許をすくわれてしまいますよ。我が一族には、王家の近親としての矜恃がありますから」
耳打ちされた言葉にユニカはドキリとする。さすがに、ヘルミーネもこのアクセサリーの色の意味には気づいているようだ。
「着けても、大丈夫でしょうか……」
恐る恐る尋ねる。ヘルミーネは次にイヤリングを手に取りながら、やはり淡々と囁いてきた。
「次代の国王の婚姻というのは、それほど簡単なことではありません」
それは、アクセサリーを贈ったり受け取ったりしたくらいでは、求婚は成立しないということだろうか。
なんにせよほんの少しだけ心が軽くなる。けれど同時に胸の隅がちくりとした。
宝石はただの宝石。どんな思いがこもっていても。
所詮、飾りだ。
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