天槍のユニカ



雨がやむとき(14)

* * * * *

 「四時に馬車と落ち合う場所を決めてある」という話を聞きながら、商店の裏道や庶民の集合住宅(アパート)が扉を並べる細い通りを縫って歩き、大通りも二つまたいで三つ目へ出た時には、ユニカはすっかり方向感覚をなくしていた。
 ディルクも迷ったのではないかと思い彼の横顔を盗み見るが、辺りを見回してすぐに進む方向を決め、無言でユニカの手を引っ張るところをみると、それは杞憂なようだった。
 二人は今までで一番大きな通りに出ていた。そのため人通りも一段と多い。ユニカやディルクが着ているのとよく似た外套を羽織った人々がたくさん行き来していたので、もう裏道を歩いていた時に向けられた胡乱げな視線はどこにもなかった。
「この道はアマリアの東西の城門に繋がっているんだ。エルメンヒルデ城はあっち、グレディ大教会堂は反対。エルツェ公爵の屋敷はこの方角」
 ふと立ち止まったディルクが指さす方向を順に見てみると、二階、三階と連なる建物の向こうに小さく王城のてっぺんが見えた。
 あちらが北であることは分かった。ということは、エルツェ公爵家からは遠ざかっているというわけだ。
 うんざりと溜め息をつくユニカに構わず、ディルクは人波を避けながら彼女の手を引いてまた歩き始める。
 ディルクにも目的地はないという。今からレオノーレ達と合流する時間まで何をしているつもりなのやら……。
 とぼとぼと足許を見ながら歩けば、ドレスの裾がすっかり汚れていることに気づいた。砂混じりの雪水を跳ね上げて走ったのだから当たり前だ。これもエルツェ公爵に怒られそう。
 厚い革のブーツを履いているおかげで足は冷たくないけれど……と思ったところで、レオノーレがユニカのドレスをめくってまで確かめ、「ばっちりね」と満面の笑みを浮かべていたのはこのためだったのかとようやく分かった。
(まったくもう……)
 遊び道具にされている気分である。自分が楽しいと思うことを他人も楽しめると考えて疑ってもいないのは実に迷惑だ。
 ユニカがむすっとしながら歩いていると、突如視界に小さな生き物が飛び込んできた。それは己の勢いのままユニカに突っ込んで悲鳴を上げる。十ほどの子供だ。

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