雨がやむとき(15)
彼は邪魔だよと言わんばかりにユニカを睨めつけ、また走って行ってしまった。いったいなんなのだ、と思いながら小さな背中を見送ると、彼は近くの商店に駆け込んでいった。
「大丈夫か?」
「ええ……」
「あの店の丁稚(でっち)かな。新年の祝賀は終わってもまだ人も多い。忙しいんだろう」
ふうんと相槌を打ち、ユニカはようやく立ち並ぶ商店に目を向けてみた。
城門へ続く一等の大通りとあって、どことなく高級そうなものばかり売っている。葡萄酒の瓶や茶葉の箱が積み上げられているのが見えるけれど、いずれもしっかりした構えの店の奥だ。中へ入ってゆく客も仕立てのいい衣装を着た者ばかり。
通り過ぎた店で一抱えもあるチーズを切り分けているのが見えたので、ユニカはつい中を覗き込んだ。店の中では店員と思しき男達が二人がかりで大きなのこぎりを交互に押している。チーズはああして切るのか……。
「何か気になるものでも?」
ユニカの歩調が遅れたのでディルクはすぐに異変に気がついた。そしてユニカが覗いていた店の看板を見上げて首を傾げた。
「買っていく?」
「……いいえ。少し、珍しかっただけです」
「そう。俺は一つ欲しいものを思い出したよ。捜してもいいだろうか」
「どうぞ……」
どうせ時間はあるのだし、じっとしていても寒いだけである。それに店の中の様子を眺めて歩くのも悪くはない気がする。
そして、王族がこんな庶民の街で手に入れたいものとはなんなのだろう。それも少し気になった。
「店の場所は分かるのですか」
「いや。でもこの通りにあると思うよ。よく似た店があるし。見つからなかったら違う店のものでもいい」
よく似た店……ということはなにがしかの食べ物?
通り過ぎる店舗を眺めて歩いていると、呼び込みをしている娘と目が合い声をかけられてしまった。ディルクはあっさりと無視していくので、ユニカも申し訳ないと思いながら通り過ぎるだけだ。しかしそういうものなのだろう、娘は気にした様子もなくほかの通行人にも声をかけていた。
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