天槍のユニカ



両翼を成す子ら(7)

「先日はせっかくご招待くださった宴を欠席してしまい、本当に申し訳ありませんでした」
「いいえ、殿下。ウゼロからの長旅に続き、毎日のように他家の歓迎を受けていらしてはさぞお疲れだったでしょう。わたくしの方こそ、配慮の足りぬお手紙を差し上げてしまったことを悔やんでおります。エイルリヒ様、あの夜はありがとう。殿下の代わりにこの婆のお話相手になってくださって、とても楽しいひとときでしたわ」
「それはよかった」
 ブリュック女侯爵とどういう話を楽しんで来たのかは聞いていないが、エイルリヒにとってはあまりいい思い出ではないらしい。いつでもうまく笑顔を作れる彼が頬を引き攣らせている。
「今日の機会にはぜひ殿下と色々なお話をしたいと思っておりました。……それにしても、」
 エイルリヒの表情に気づいてもいないブリュック女侯爵は、ディルクを見上げてわざとらしく目を潤ませた。
「ご立派になられましたこと。ご誕生の報せを聞いたのがついこの間のように思い出されますのに、もう二十年も昔のことだなんて」
 微笑むディルクの目許がひくりと動く。ブリュック女侯爵にはそれが分かった。扇の向こうで彼女の目はさらに細められる。
「わたくし、本当に嬉しかったのですよ。なんといってもハイデマリー様が……あの奔放な姫さまが公妃に、そして母君になられたと聞いた時には我が子のことのように感激してしまいました」
「……わざわざ公国へもお祝いに駆けつけてくださったそうですね」
「ほほほ、殿下は覚えていらっしゃらないでしょう。よくお休みになっていた殿下を抱かせていただきましたのよ。姫さまにそっくりな御子だとあの日も思いましたが、こうしてご立派に成長なさっても、母君の面影の強いこと」
 色の薄い金の髪、目鼻立ち、そしてエメラルドでもペリドットでも表現できない、不思議な青みを帯びた緑の瞳。ディルクの容姿に女らしさがあるわけではないが、一度ハイデマリー王女を見たことがある者なら彼女を思い出さずにはいられないほど、王女によく似ていた。二人の間には最も近しい血縁があることを感じずにはいられない。
 そして、人々はことさらにそのことを囃し立てる。もう片方の血筋については決して目を向けないように。

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