天槍のユニカ



秘密の蓋(1)

第五話 秘密の蓋


 まるで恋人同士のようにレオノーレと手を繋ぎ、ユニカは内郭へと戻って来た。半強制的に押しつけられたとは言え、ユニカが親友≠ニいう関係を認めたためにレオノーレはご機嫌である。しかし、
「公……」
「違うわ。レオよ、レオ。何度も言ってるじゃない」
 ユニカがレオノーレの身分で彼女を呼ぼうとすると、すかさず訂正の一声が入った。そうは言われても、にわかに改めることなど出来ようはずもないのだが、期待のこもった眼差しが痛い。
「レオ、公国の控え室はあっちよ。顔を見せておかないと、同席する人たちがあなたを捜しに行くのではないの?」
 ユニカは戸惑いながらも、レオノーレが求めるように彼女の名前を呼び、丁寧な言葉遣いもやめた。話し方のコツはなんとなく分かってきた。エリーアスにしているようにすれば良いのだ。するとレオノーレは嬉しそうに目を細めて鼻先から見つめてくる。
「それもそうね」
 彼女はからりと笑って、素直にユニカに同意した。そして公国の控え室へ行くのかと思ったら、レオノーレは後ろをついてくる侍女にただ目配せする。侍女は優雅に一礼し、二人の傍から離れた。控え室へ向かうのは彼女だけのようだ。
「これで問題ないわね」
 ふふん、と胸を張る公女に、ユニカはかける言葉がない。絞り出すような溜息が一つ漏れる。
「それにしてもお腹が減らないのよね。ヘルミーネ様が出して下さったさっきのお菓子、とても美味しかったから」
 ユニカに倣うようにレオノーレも重たい溜息を吐いた。それもそうだろう。起きがけで朝食も食べずにお茶の席へやって来たというレオノーレは、腹ぺこだと言ってお茶請けをぱくぱく口に入れていたのだ。人前では小食を装うのが可愛らしい女≠ニいう常識が貴族社会にはあるらしいので、貴婦人たちは豪快に焼き菓子を頬張るレオノーレの姿を見て呆気に取られていた。
 その内彼女らの遠慮も薄れていき、結局皆で美味しくお菓子を食べていたのだが、ユニカはそれにもあまり参加していない。そしてお菓子など食べていなくても、寝不足の身体では食欲が湧かなかった。
「ああ、来た来た! ちょっと時間ぎりぎり過ぎやしないかね。早く支度をなさい。……おや、公女殿下?」
 侍官に案内された控えの間へ入ると、エルツェ公爵が諸手を広げてユニカを迎える。亡き王妃の兄であり、王とは個人的な友人でもあるという彼が、今日の昼食会での付き添い役だ。ユニカを見るなり尊大に命じた公爵だったが、姫君の横にもう一人の姫君がくっついていることに気づくと、愛嬌のある顔で首を傾げて見せた。
「ごきげんよう公爵。あなたの奥様のサロンに混ぜて頂いていたのよ。それでユニカと一緒に来たの。わたくしもこちらで支度させて頂いてもよろしい? 髪とお化粧をちょっと直して貰いたいの」

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