傷口と鏡の裏U(13)
それに、親友、友人、とは。どんな風に付き合うものなのか分からない。
快く返事を貰えるとは思っていなかったレオノーレだが、これほど煮え切らない態度を取られるとも思っていなかった。もともと悠長に待つという習性がない彼女は、ユニカにぴったりと寄り添いその表情を窺いつつも、もう待っていられなくなる。
「お願いユニカ様、慣れない土地に滞在するのはとっても心細いのよ。社交上の知人ではなくて心を許せる友人が欲しいの。わたくしとお友達になって」
ユニカの腕を抱えて立ち止まり、侍女と騎士の目の前でレオノーレは懇願する。表情こそ言葉の通りに必死だったが、眼光は違った。さっさと返事をしろと思っているのが分かる。ユニカはようやく選択肢がなかったことに気づいた。
加えて驚きを隠さない侍女と騎士の視線。彼らの前で、これを断ることは。
「ええ、はい……」
出来るはずがない。
「本当? 嬉しいわ。ではわたくしのことはレオと呼んで下さいな。ユニカ様のことも、お名前でお呼びしても?」
青ざめながら、糸で操られたようにユニカは頷く。レオノーレはにっこりと笑みを浮かべた。彼女はようやくユニカの腕を解放すると、昼食会の会場を目指して再び歩き始める。そしてもう一度、ユニカの耳許で内緒の言葉を囁いた。
「友人が欲しいというのは本当よ。それに、こう言っておけばことあるごとに一緒に行動しても変ではないでしょう。また昨晩のようなことがあっても、いざというときはあたしが守ってあげられるしね。――ディルクには相談するけども」
思わず口許に滲む喜びも嘘ではないが、付け加えるレオノーレの声は低い。
友人って、こんな風に出来るものなのだろうか。多分、違う。そんな混乱で頭がいっぱいになったユニカはレオノーレの表情や声色を気にしている余裕など一つも無かったので、囁かれた言葉も耳に残らないくらいだった。
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