天槍のユニカ



夜の片隅で(6)

 それからもしばらく同じ方向を眺める青年の背に、ディルクは冷たい眼差しを注ぐ。
「……あんな奴と仲良くなんかするなよ」
 やがて青年と騎士の姿が見えなくなった途端、終始黙っていたルウェルが低い声で唸った。溜息でそれに応えながらも、今までよく我慢していたなとディルクは思う。
「わざわざユリウスの話を振ってきやがった。あいつ、初めからお前と仲良くする気なんて無いぜ」
「……だろうな。俺にもそんなつもりは無いが」
 怒りと憎しみに燃え上がりかけていた心が急速に冷えていく。かつては温かくディルクを満たしていた記憶の残滓が脳裏をよぎった。凍り付いたその欠片は、今や鏡の破片のように彼の心に刺さるばかりだ。
「にこにこしてたように見えたけど?」
「人目があるんだ、仕方ない」
 銀色に燦めきながら彼に降りかかろうとする破片を払いのけ、ディルクは颯爽と一歩を踏み出した。
 なくしたものを、なくしたままで終わらせない。
 ディルクはそう決めたのだから。



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 シャンデリアに垂れ下がる水晶のプリズムが、蝋燭の光を集めては無数の光線に変える。四方へ飛び散る光に応え、人々のまとう金や宝石もチカチカときらめいていた。独特の明るさが夜闇を広間の隅へと追いやっている。
 薄暗い廊下から光溢れる大広間へ入った途端、ユニカの目は眩んだ。
 腕を引っ張る強い力のことも忘れて、彼女はうっと唸りながら目を閉じた。半歩前を歩く姫君はそんなことに気づきもしないので、視界が真っ暗なまま引き摺られたユニカはすぐに脚をもつれさせる。ついでにドレスの裾も踏みつけていよいよ倒れそうになったが、前をゆく彼女はすかさずユニカを支え、助け起こしてくれた。
「あら、大丈夫?」
「は、い」
 本当は全然大丈夫じゃ無い。しかしあまりに素早い彼女の身のこなしに驚き、曖昧に頷き返してしまった。すると彼女は満足し、ユニカの右腕を両手でがっちりと抱えながら再び歩き出す。
 これはもしかしなくても、絶対に逃がさないという意思表示だろうか。
 ユニカは蒼白になった。
 彼女の迫力にもそうだが、広間のまばゆさに目が慣れ、会場の様子が視界に飛び込んできたせいだ。その途端、名前も顔も知らない無数の人間と目が合う。慌てて顔を逸らしても無駄だ。その先でまた別の視線に捕まるのだ。

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