天槍のユニカ



夜の片隅で(7)

 皆、ユニカを見ている。
 途端に足が竦み、レオノーレを引っ張り返すような形でユニカは歩みを止めた。
「どうなさったの? 気分でも悪い?」
 問いかけるレオノーレは眉を顰めている。何かが不満らしい。何が不満なのか、ユニカには分からない。
 彼女の機嫌を損ねるのはまずいのではないだろうか。なんと言っても大公の娘だ。この新年の宴に大公家の代表として参列している、最も大切な国賓である。
 周囲の目には、今自分たちはどんな風に映っているのだろう。とても、ユニカが王家の女性として大公家の姫君レオノーレをもてなしているようには、見えないはずだ。
 そんなことだけは冷静に思いつく自分の頭が嫌になった。
 頼みの綱であるエルツェ公爵夫人ヘルミーネ、そしてプラネルト女伯爵エリュゼさえも、注意深くあたりやユニカたちを観察しながらついてくるだけで、レオノーレの行動に口を出そうとはしない。どうしてだろう。
 ユニカが裏切られた気分で肩越しに二人を振り返った途端、またしても強い力でぐいぐいと引っ張られる。
「入ってきたばかりだけど、人に酔っていらっしゃるのかしらね? あそこの椅子に座りましょう」
 あそこって、どこの? ユニカはレオノーレが目指す先を見てみるが、空いている椅子などどこにもなかった。
 会場の中央は手を取り合ってくるくると回る男女が場所を占めており、それを取り囲むように立食のためのテーブルと料理が並んでいた。多くの者が酒杯を片手にうろうろと歩き回り、目当ての人物を見つけてはたむろし。座って休むための椅子もたくさん用意されていたが、どこも我が物顔の貴婦人や姫君たちが陣取っている。
 彼女たちの視線は特にきつかった。扇の陰で囁かれている言葉は決して好意的なものではないだろう。男たちから感じる敵意とはまた違う、ユニカが感じたことのない種類の悪意がびりびりと伝わってきた。
 多分、嫉妬というやつだ。身に覚えがないと思えるほど自分が愚かではないことを呪ってしまう。
 突然表舞台へ現れ、王や王太子に目をかけられている女が、彼女たちにとって邪魔なはずがない。特にこの中に混じっているかも知れない王太子妃候補の姫君は気が気でないだろう。
 ユニカがどんなつもりであろうと――たとえ、王太子からの求婚を既に断っていようと、ディルクが式典を前にしてユニカを庇うような素振りを見せたり、実際にユニカを庇って怪我をするという事件も起きているのだから、王太子の関心がユニカに向いていると見なされて当然だ。
 出来れば嫉妬心むき出しの女たちには近づきたくなかったが、レオノーレはユニカの腕を捕らえたまま、ある一団にずんずん歩み寄っていく。
 四人で輪になり、ひそひそとささめき合っていた彼女たちは、レオノーレにまっすぐ見つめられていることに気づき口を噤んだ。若い姫君がひとりと、中年の貴婦人が三人のグループだった。

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