天槍のユニカ



見つけるために(9)

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 元日の主要な儀式は陽が傾き始めた頃に終わり、夕刻からはお決まりの夜会が開かれる。
 衣装を替えるために控え室へ戻ったはずだったのに、ユニカは呆然としたまま椅子に座って動かなかった。
 まさか、王があんな形でユニカの身分を公表するとは。事前に何も聞いていなかったので、まだ思考が追いついていかない。
 確かに何の紹介もないまま、ユニカがあの席に座っているのはおかしなことだっただろうが、それにしても唐突で強引だった。祝いの席では、誰も異を唱えられない。
 いや、王はそれを狙ったのか。
「お支度をなさいませんと、宴に間に合わなくなってしまいますわ」
 もう間に合わないくらいだろう。『儀式』ではないので、ユニカがいなくても夜会は始まる。勿論、出席しない王族への心証はよろしくないだろうが……。
 ディディエンが困るのは分かっていたけれど、ユニカは首を振り、ただぎゅっと手元の扇子を握りしめた。
 昼間の式典は、まだ決まった席に座っているだけだから良かった。しかし夜会は交流の場だ。誰がユニカにあらゆる方向から好奇の目を向けられる。
 式典会場で味わった緊張、そして王の発表が、すっかりユニカの足を竦ませていた。
 何より嫌な予感をもたらしていたのは、公国の代表だというあの公女だ。
 大公の娘ということは、ディルクの妹姫である。華やかな雰囲気、華やかな容姿、気性も華やかなのだろう。
 ユニカを見つめてくる熱烈な好奇心の詰まった瞳を思い出し、ますます気分が沈む。
 彼女は公国を代表してやってきた大公の名代。王族と交流することは彼女の職務でもあるはずだ。
 それを口実に近づいてこられたら、ユニカはどう対処していいのか分からない。儀礼的な挨拶、暗黙の了解に則った形式だけの会話で済むはずがないだろう。
 表へ出るとはこういうことだ。形や作法を教え込まれただけではどうにもならないのだ。
(やっぱり、王家の身分なんて――)
 ユニカは王族のみが着けることを許される青金の指輪を左手から抜き取った。やり場無くそれを握りしめ、唇を噛む。
 そうして、ユニカが動くことなく無情に時計の針が進んでからしばらく、控え室の扉を叩く者があった。
 ディルクだろうか? ユニカの胸にはそんな期待が湧き上がる。
 また彼が手を引いて、ここを連れ出してくれるのなら心強い。
 しかし訪れたのは顔を知らない貴婦人だった。彼女に遅れて、エリュゼも現れる。
 貴婦人はあからさまに落胆したユニカを見て、大きな溜息をついた。
「なぜ、お衣装を改めていらっしゃらないのですか? 宴は始まっております」
「……どなた?」
「エルツェ公爵テオバルトの妻、ヘルミーネと申します」

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