天槍のユニカ



見つけるために(8)

 ユニカを座らせた後兄が冷え冷えとした視線を臣下たちに浴びせかけたところを見ると、ユニカに対して批判的な声から彼女を庇った、そしてそんな声を上げる者たちを牽制したということだ。
(あんな青白い女が、王家にとってそんなに大切なのかしら? 陛下が自ら紹介したようなものだし)
 ユニカの存在が公に認められたのは、昨月の頭にあったという審問会が初めてだそうだ。
 審問会の詳細な内容を聞いて驚きもしたが、その時ディルクが負傷した原因にも驚いた。
 あらかじめ情報はあったものの、まさか本当に、兄がユニカを庇って弩の前に飛び出しただなんて、にわかには信じられない。
 レオノーレの知る兄は、仲間意識が強く、その囲いの内と外で明確な線引きをする人間だった。内の人間にはどこまでも愛情深いけれど、外の人間に対しては合理的で素っ気ない付き合い方しかしない。
 外面が良いので女にも優しい、しかしいざというときにはやはり情が薄い。自分の身を危険にさらしてまで、彼は囲いの外の人間を助けることはないのだ。
 例外があるとすれば、そうまでして助けるほどの価値が相手にあるとき。価値というのは政治的な価値であったり、異性としての価値であったり、そこはディルクのものさしに聞いてみなければレオノーレにも分からない。
 ユニカの態度を見ると、彼女はディルクの『囲いの内』に入っているほど親しいようには見えなかった。
 だから珍しいと思った。悪く言えば、違和感を覚えずにはいられない光景だったのである。果たしてどんな価値が彼女にあるのか。
 昨日ディルクとは対面したが、儀礼的な挨拶を交わす時間しか無かったので、彼とユニカの関係については少しも話を聞けていない。
 好奇心は膨らむばかりだ。
 探りを入れるというまどろっこしい真似は嫌いだったので、レオノーレはこの式典が終わった後、夕刻から開催される夜会において直接ユニカと話をするつもりだ。
 やがてレオノーレから国王に、祝辞を述べる順番がやってくる。
 確か王にも何か言ってやろうと思っていたことがあったはずだが、いざユニカを目の前にすると、その内容もどこへやら。
 覚えた原稿を間違いなく読み終え、副使のドナート伯爵が進物の目録を奏上し、王がそれを労う言葉を二人に投げかけるまでの間、レオノーレはずっとユニカを見ていた。
 彼女はレオノーレの視線から逃れるためうつむいたり視線を泳がせたりしていたが、少しでもレオノーレの様子を確かめようとすれば目が合う。そのたびにぎくりと肩を振るわせるユニカの様子を鑑賞しながら、レオノーレは口の端を吊り上げて笑う。
(何から聞こうかしら)
 レオノーレはそうやって胸を躍らせていた。
 しかし式典が終わり、一度貴族たちが解散した後、賑やかな宴の会場と化した大広間に、ユニカは姿を現さなかった。

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