両翼を成す子ら(1)
第4話 両翼を成す子ら
半年にわたって極度の緊張が続いた領土問題をたった五日間の戦闘で終結させ、講和をまとめた功績は誰の目から見ても大きい。
しかし失ったものも多く、彼女≠ヘ唯一この手に遺った宝であり、心のよりどころだった。
『だめよ、ディルク。こんな端女(はしため)に手をつけては』
――ワタシタチノ血ガヨゴレテシマウワ。
もう動かなくなった娘の背に、血濡れた剣がさらに振り下ろされる。
「――っ!!」
大きく目を瞠ったカミルの顔が視界の端にあった。
ディルクは荒い呼吸を繰り返し、天蓋へ向かって伸ばしていた手をゆっくり下ろす。
夢、だ。
「殿下……」
「悪い、寝坊したか?」
「いいえ。いつもならご自分で起きていらっしゃるのにと思って、ご様子を伺いに来ました」
「そうか」
ディルクは汗でべったりと貼りついてくる寝間着の襟をはがしながら起き上がった。
カーテンが開け放された寝室はすっかり明るい。寝坊はしていないというが、支度にかかる時間を思えば起き出すにはぎりぎりの時刻だろう。
大きく深呼吸して、まだ走り続けている心臓を落ち着かせる。
どこかに隠れたい気分だった。こんなに情けない姿を侍従に見られるなど、気が弛んでいるにもほどがあると自分を叱る。
「殿下、お顔が真っ青です」
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