天槍のユニカ



見つけるために(5)

 ユニカが王族席に案内されると、縦に広い大広間は、雪が積もったように白を基調とした衣装で埋め尽くされていた。普段は色とりどりの衣装を着ているであろう貴族たちだが、慶事の折にまとうのは白がよいとされている。
 薄曇りの空から、天窓を通して差し込む光はさして強くない。しかし、広間を飾る金の装飾に、どこからか掻き集められた花々、そして貴族たちの雪のような衣装のおかげで眩しく感じられる。
 壇上にある王族の席にユニカが現れた途端、細波のように静かな喧騒に包まれていた広間が、予想通りどよめいた。分かっていたこととは言え、心臓が縮み上がる。
 数百人という人間の視線が突き刺さり、肌がちくちくする気さえする。何故か一人一人の表情がはっきりと見え、無遠慮にユニカを指差す者がいたり、声こそ聞こえないものの不快感を露わに彼女を罵っている者がいることも分かった。
 歩みを止めそうになるユニカを、後ろでドレスの裾を持った侍女たちが見守っているのを感じた。
 しかし声はかけられない。それが許されないシーンなのだ。ユニカが、自分で歩いて席までたどり着くしかない。
 毅然として顔を上げていればいいと言われた。しかしそれも許さないほど渦巻く猜疑と批難の視線。ユニカが怖じ気づき真っ青になっているのは、誰の目にも明らかだろう。
 すると、先に席に着いていたディルクがおもむろに立ち上がった。
 彼は玉座より一段低い左隣の椅子を離れ、反対の袖から入ってきたユニカを迎えにくる。
 彼が立ち上がると同時に、広間のどよめきは一気に静まっていく。
「作法に反するのでは……」
「王家の決めたことに従えない連中に、批判する権利などやらないよ」
 手を引いてくれる彼にこっそり問うてみると、強い口調でそう返ってくる。
「君の存在は王家が認めた。それでいいんだ」
 ユニカを椅子に座らせると、彼は微笑んだまま広間を振り返る。ゆったりと隅々までを眺めた後、ディルクは自分の席に戻った。彼にどんな視線を浴びせられたのか知らないが、大広間は水を打ったように静寂に包まれる。
「国王陛下のお出ましでございます!」
 痛々しい沈黙を破る声に、誰かがほうっと息をつく気配を感じた。弛緩した空気はあっという間に広間中へ伝播していくが、王の姿が現れた途端、先ほどまでとは違う緊張感が生まれる。
 ユニカのドレスの裾に負けないほど長いマントを引き摺り、王が玉座へと上る。柔らかな陽光を受けて輝く青金の王冠と王笏に、広間に集まった臣下たちは粛々と跪いていった。
「天の主神と、十二の女神が巡らし賜う新しき年に感謝を」
 王は淡々と常套句を述べ、王笏を掲げて見せた。
「旧き年、我が王家は唯一の継嗣クヴェンを喪った。しかしその悲しみはすすがれ、新たな世継ぎを迎えられたことを、皆とともに改めて慶ぼうと思う。ディルク」
 名を呼ばれた王太子は颯爽と王の前へ進み出て、跪く。
「我が息子よ。王家の剣を預けたそなたには、誰よりも正しき道を全うする責務がある。正道とは何かを常に己に問い、我とともに国を導く者として、臣下、民の規範となるよう努めるのだ」

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