天槍のユニカ



見つけるために(4)

 礼拝を終えディルクや王と別れた後、再び着替えのために西の宮に戻り、次の式典のために着替えをしながら簡単な朝食を腹に詰める。悩んでいる暇はない。
 しかし徐々に緊張が高まってきた。好きなはずのヨーグルトさえ喉を通らず、スプーンで一杯舐めるのがやっとだ。
 国内すべての貴族の当主、あるいはその名代と、近隣国からの使者が集まる新年参賀の式典。大公家を筆頭に、上位の家から順に延々と祝辞を述べていく儀式で、一日では終わらない。
 まさかそんな大舞台に関わることになろうとは思ってもみなかったリータとフラレイは、ユニカと同じくらい青くなって縮こまっていた。けろりとしているのは、エリュゼの妹にして新しくユニカの傍に仕え始めたばかりの侍女、ディディエンだけだった。
「ユニカ様、林檎のコンポートです、いかがですか?」
 大広間に移動する直前、ディディエンはどこからか調達してきた菓子の皿をユニカに見せて、にっこりと笑った。少しも緊張していない様子である。
 ユニカは黙って首を振る。
「でも、朝食もほとんど召し上がっていません。お腹が空いて倒れてしまったら大変です」
「平気よ……。ディディは緊張しないのね」
「していますよ、すごく!」
 眉を吊り上げる彼女の表情にはやはり緊張感など無く、ユニカはわずかながら肩の力を抜くことが出来た。
 なので、式典の要所要所で介添えをする侍女にはディディエンを選んだ。迎賓館で二年勤めた経験があり、この通り肝も据わっているからだ。
 どうしてもコンポートを食べて欲しいという顔で見つめてくるので、ユニカは仕方なく林檎をひと囓りした。甘さとリキュールの香りが案外美味しい。初めから食べておけばよかったなと思うと、それがディディエンにも伝わったようで彼女は、嬉しそうに笑う。
「お姉……プラネルト伯爵さまから、ユニカ様のお好きなものはなんでも聞いています。よかった、これなら召し上がって下さると思いました」
 すぐに用意できる菓子ではない。ユニカが気分によって食事をとったりとらなかったりすることを知っていた上で、式典が始まる前に時間があれば少しでも口に入れられるように、あらかじめ準備してあったのだろう。
 気も手も回すのが上手いのは、姉と同等以上だ。幼いながら素晴らしい仕事ぶりである。
「ありがとう。今日はよろしく頼むわ。私、貴族の顔なんてほとんど知らないの。声をかけられたらなんと答えればいいのか教えられはしたけれど……」
「はい、お任せ下さい! 知っている限りのことであればお教え出来ます!」
 頼りになるのかならないのか分からない返事だったが、謙遜して後ろへ引っ込まれるよりはずっとありがたかった。ユニカが笑みを零すと、ディディエンも照れくさそうに笑い返す。
「お迎えが参りましたわ」
 扉を叩く音に応対していたリータが、上擦った声を上げた。
 座っている内に出来た衣装の皺を伸ばして貰いながら、ユニカは白いレースの扇子を握りしめ、侍官に従って大広間へ向かう。

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