天槍のユニカ



見つけるために(6)

「御意」
 ディルクを共同統治者に据える宣言に、広間のどこからか感嘆の溜息が聞こえた。広間のすべての視線が彼に集まっている。ユニカはそのことにほっとしながら、息を殺し、気配を殺して、式典が一段落するのをじっと待つことにしていた。
 しかし、
「そして、ユニカ」
 高いところから、王の声が降ってくる。
 リハーサルになかったことだったので、とっさに反応できずユニカはのろのろと顔を上げた。無数の人々と視線が絡む。
 何が起きているのか分からずに、頭の中が一瞬真っ白に弾けた。
「前へ」
 振り返れば、王がディルクの隣を王笏で指し示している。そこへ来い、と言うことか。
 ユニカが硬直していると、王族席の袖からディディエンが飛び出してきた。彼女はドレスの裾を持つ準備をしながら、切羽詰まった声音でユニカに囁きかける。
「ユニカ様、陛下の御前へ」
「聞いていないわ」
 それでも行かねばならないのだ。王が声を発してしまったからには。ディディエンの瞳はそう訴えていた。
 促されるまま立ち上がり、ユニカは混乱しながらもディルクの隣に跪いた。
「我が妃、クレスツェンツが後継と認めた娘よ」
 うつむいたまま、ユニカは目を瞠った。背後で湧き上がる驚きの声も遠く感じるほど、王の言葉だけが浮き上がって鼓膜を叩く。
「そなたの籍はこの後、エルツェ公爵家に預け置く。されど一度は王家の名を被った身。そなたに与えた三つ名に恥じぬよう、民のために尽くす行いをせよ」
 ユニカは必死で舌を動かし、返事をしたつもりだ。しかし絞り出せたのは、自分にも聞こえないほどのか細い声だった。
 席へ戻るよう命じられ、うなじを軋ませながら顔を上げる。そのときに王の表情を確かめた。すると見上げた先には、真っ直ぐにこちらを見下ろす彼がいて、淡い緑色の瞳にはユニカだけが映っていた。
 何を考えているのだろう。クレスツェンツの名とともにユニカのことを語るだなんて。
 ますます王のことが分からなくなる。
 ユニカの血を棄てているという彼。それでも、対価であるから差し出せと言う。
 医女はあれからもユニカの許へやってきた。血は渡しているが何のためか分からない。王はユニカをどうしたいのだろう。
 彼らが席へ戻ると、祝賀の音楽が高らかに鳴り始めた。大広間のざわめきが遠慮無い喧騒に変わっていく。
 そんな雑音に掻き消されないように、行事の官吏が声を張り上げて祝いの言葉と列席した主な臣下の名を読み上げていった。しかし皆の意識は、彼の言葉よりも王族席に座るユニカに釘付けになっている。

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