天槍のユニカ



審問・青金冠(17)

「無理だわ、そんなの……」
 エリュゼの熱っぽい訴えにも、ユニカは声が震えるのを抑えて弱々しく答えるのが精一杯だ。
 ばかげている。辺境の村で生まれ育った、それも多くの民を殺した娘が王族だなんて。
 施療院のことにしてもそうだ。いかに敬愛していたクレスツェンツの思惑とはいえ、目の前に彼女がいれば泣いて断りたい。
 ユニカはクレスツェンツの存命中、一度も施療院には近づかなかった。そこに集まる病人が怖いのだ。
 ユニカが癒しの血を持つ『天槍の娘』であると知られたら、その血を得るため彼らはまた<ニカを取り囲むのではないか。ユニカや、ユニカの周囲の人を傷つけて血を奪おうとするのではないか。
 青ざめるユニカを見て、エリュゼは何も言えなくなったようだった。
「クレスツェンツ様やプラネルト女伯爵の気持ちは、悪いが今は置いておこう。まずは目の前にある問題を片付けなくては。いや、片付けるだけじゃない。これを機に君を排除しようとする者達の力を一気に殺いでおこうと思う」
「……何をなさるつもりなの?」
 好戦的なディルクの台詞に、表へ出たくないという思いが払拭できないユニカはますます顔を顰める。気分が悪い。目眩がしてきた。
「君を正当な存在だと知らしめるために、君への攻撃を不当なものだと主張する。幸いにも相手は法にそぐわない行為に手を染めている。それを糸口にすれば、この企てに加担した者は逆臣として処分できる」
「誰が中心人物であったか、殿下はもうご存じなのですね。ですが、あまりことを荒立てては廷臣の方々の反感も大きくなるのでは……」
「プラネルト女伯爵も、私が外つ国からやって来た王太子だと舐めているくちか? 心配してもらわなくても結構。私がまだまだこの国の事情に疎いことは自覚している。どこまで追求し誰を処分するかはきちんと陛下に相談したから、うまく収めてみせるよ」
 最後の言葉を、ディルクは蒼白になって黙っていたユニカに向けて言った。
「次の審問会は三日後。君はただハーブについてこう答えるだけで良い。『あれはウゼロ大公家の嫡子エイルリヒが贈ってきたものだ』と」

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