審問・青金冠(18)
「でも、違っていたのでしょう? 確かめられたら……」
「エイルリヒは、『僕が贈りました』と言ってくれるさ」
ユニカはもちろん、詳しい事情を聞かされていないエリュゼも一緒に、ただ怪訝そうに眉根を寄せた。
王はすべてをディルクに任せているようで、何も言わない。
* * *
王妃様が、私を養女に。
そんなことを考えていたなんて一言も話してくれなかった。彼女はいつでもユニカのことを『アヒムの可愛い娘』と呼んでいた。なのに、ユニカは『アヒムの娘』ではなくなってしまっている。
クレスツェンツがいない今、養父の遺した手紙と日記、そして正式な手続きの上で養父と親子として結ばれているという事実が、ユニカにも家族がいたということが、心の支えだったのに。
施療院のことだって。
一緒に視察に行こうと誘われたことは何度もあった。けれど頑なに拒否するユニカを、クレスツェンツは無理に連れて行こうとはしなかった。なのにどうしてそんな言葉をエリュゼに遺していったのだろう。
クレスツェンツに代わって施療院事業の指導者になる? あり得ない話だ。
ユニカは辺境の村で生まれ、その故郷とともに多くの命を滅ぼし、ただ復讐の時だけを待っている生ける屍だ。生きようとする人々を支えることなんて出来ようはずがないのだ。
結い上げられた髪が乱れないように気をつけながらそっと化粧台に突っ伏した。目許ににじんでいた涙が深い紺色のドレスの袖に吸い取られていく。
次の涙が出てこないようにぎゅっと力を込めて目を閉じ、自分に問うてみる。
私は何が欲しい? ――治世がディルクに引き継がれたあとでいい、王の命が欲しい。
それが手に入るのは、あと十年は先のことだ。ならばその間、どうするのか。
(何にも動じることなく、待つのだと決めたはずよ)
以前に比べてユニカの周りが騒がしくなっても、それは変わらない。
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