天槍のユニカ



審問・青金冠(16)

「そなたは審問会に出席し、ハーブを所有していた経緯を説明せねばならぬ」
 ディルクが言葉を濁した先を、王が続けて言った。しかしユニカはせせら笑い、ほのかに揺れるランプの灯りを挟んで王を睨み付ける。
「私は公の場には出られません。いないのですから」
「そなたはこの王城の中に確かに存在する者として、今日公表した」
「ご自分が囲っている娘とでも?」
「いや。そなたは、我が王家に迎えられた養女。王族の一人であると」
 クヴェン王子暗殺の件を伝えられた時以上に、ユニカの頭の中は空回りした。目を丸くするだけのユニカに構わず、王は続ける。
「クレスツェンツが、死を前にそなたを養女にと望んだのだ。余とプラネルト女伯爵がそれを承認し、籍の書き換えは済んでおる。分かっていようがそなたに王位の継承権は認められぬ。すでに王太子が決まっているゆえ、近いうちにに王家からも出ることになろう。身元はエルツェ公が引き受けてくれることに決まった」
 シヴィロ王家は、近隣諸国に類を見ないほど『王家』の規模を小さく保っている。理由は単純、王家の維持には金がかかるからだった。
 王子や王女が複数いても、王位継承者が決定したあとは、ほかの王の子達は成人すると同時に『王族』の身分を取り上げられ、貴族の養子になるか、女子であれば他国へ嫁ぐか、あるいは僧侶として教会へ入ることになっていた。そして王家と他家や宗教勢力、外交のための架け橋となるのだ。
 そして今は世継ぎとして迎えられたディルクがいる。王室典範に則れば、ユニカは王家を出ていなければならない。今日の審問会では驚きうろたえるばかりだった貴族達も、次はそれを指摘してくるだろう。
 とはいえ、審問会の間くらいはクレスツェンツが用意した『王族』の身分でユニカを庇える。その後のことも、王とディルクは決めてあった。
「どういうことですか? 王妃様が、私を養女に? 籍の書き換えは済んでいるって、それでは、私は……」
 言葉が途切れた。ユニカのそんな様子を見ているディルクたちには、なぜ彼女がこれほどうろたえているのか正しく推察することは出来ないだろう。
 ユニカが打ちひしがれる理由を、彼らは思いつくはずもない。
「王妃様は、ユニカ様に施療院の事業を引き継いでいただきたいとお考えでした。それゆえ、正式にご自分の娘としてお迎えになるとお決めになったのです。ユニカ様が施療院にとってなくてはならない存在になっていれば、ユニカ様が王族のご身分をお持ちのまま施療院を導いてゆくことも出来るのではと……今は、それだけの時間の猶予はなくなってしまいましたが……」

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