天槍のユニカ



審問・青金冠(15)

「そうですか、難しいお話なのね。でもここは温かくもありませんし、長話はやめておきましょう。私からは何を聞けばよいのか分かりません。どうぞどなたからでも、お話をなさってください」
 ユニカまだ痺れの残る左手を手袋の上からさする。冷えると痺れがひどくなるようだ。そうでなくても早く戻りたいと思った。他人のいるところで王と顔を合わせるのは気まずいのだ。
 特に、彼の命を欲していると打ち明けてしまったディルクの前では。
「それもそうだな。まずは近衛の小隊が君の部屋を捜査……荒らし、君を捕縛しようとした件について話そう。結果的に言えば、あれは君を陥れようとする者が近衛隊長を装って出した偽の命令だった。ただ、君が捜査と捕縛の対象になった理由はある。……君にはクヴェン殿下を暗殺した疑いがかかっている」
「なんですって?」
 ユニカは眉を顰めながら顔を上げた。何か聞き間違いをしたらしい。
「君に、クヴェン殿下暗殺の容疑が」
 淡々と、再び告げるディルクを見つめ返すが、彼は冗談を言っているふうではなかった。少し間を置いてじわじわと胃の辺りが熱くなってくるのを感じた。
「クヴェン殿下を、私が? どうして? 殿下は事故でお亡くなりになったのでしょう? 私が殿下のご薨去を知ったのは二日もあとのことなのよ。それにクヴェン殿下は、王妃様が誰より大切にしていらしたたった一人の御子なのに、どうして私が――!」
 声を荒らげるユニカの唇に、ディルクはすっと人差し指をかざして微笑んだ。
「分かっている。この疑いがでっちあげだということは掴んだ。君の部屋から証拠品を押収したと告発人は言っているが、その証拠もすでに出どころが知れているんだ」
「証拠?」
「公子様からだと言って、テリエナがハーブのブーケを持ってきましたでしょう? あれは公子様からの贈りものではなかったのです。わたくしがあの時によく調べていればこのような事態にはいたりませんでした。申し訳ございません」
 ディルクの向かいに座るエリュゼが悄然と項垂れた。しかしユニカも同時に気まずい思いをする。贈りものに浮かれて、エリュゼに確かめる暇を与えず部屋に飾るよう命じたのはユニカ自身だ。
「ブーケには牛馬を興奮させるハーブが混ぜてあったらしい。クヴェン殿下の落馬事故は、君がそのハーブを殿下の馬に与え故意に引き起こしたもの、という筋書きだが、もう対処したから心配することはない。ただ……」

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