天槍のユニカ



審問・青金冠(2)

 予定通り王が体調不良を訴えたため、審問会は午後一番の開催へと先延ばしにされている。
 ラヒアックと別れて議場へ入ったディルクは、王の政治顧問たる議員達の顔を順に眺めた。小議会の議員は二十四名。家柄の上下は意外とまちまちだが、どの当主達も、王国の最も古い時代から王家との血縁を証明出来る由緒ある家名の主達だ。
 王家の二人は最も高い座席に、その下の段には議長席、議長席に向き合う形で被審問者の答弁席があった。
 議員達はその後ろに半円を描いて席に着いている。その席は登城を禁じられているブリュック侯爵の一つを除いてすべてが埋まっていた。審問を受ける者は前後から必要以上に威圧感を感じることだろう。
 いつもなら空席のプラネルト伯爵の席にはきちんとエリュゼが座っている。周りは一番若くても三十半ば、それも男ばかりなので、二十歳の娘はやはり目立った。ほかの当主の中にはあからさまに「なぜお前のような小娘がここにいるのか」という顔をしている者も。
 もっとも、エリュゼは見ていて可哀想なほど緊張に青ざめており、そんな視線には気づいてもいない。
 きちんと出てきたことは褒めてやらねば、とディルクが考えていると、議長を務めるアーベライン伯爵とともに王が議場へとやって来た。
 伯爵の顔色を見るに、午前の審問会の延期は王家側が示し合わせた時間稼ぎだったと分かっている様子だ。そのことについて王と話してきたのかも知れない。近臣の顔には事前に相談がなかったことへの不愉快さがにじみ出ている。
 彼は王が席に着くのを確かめ、議場の封鎖を命じた。
「本日は、先頃ご薨去遊ばしたクヴェン王子殿下の落馬事故が人為的なものであるとの告発について審議すべく、陛下が当会を召集なされました。告発文は以下の通り。『畏れ多くもクヴェン王子殿下のお命を奪いし惨禍について、国王陛下に告愬申し上げる――』」
 大仰な言葉で書かれてはいたが、告発の内容はディルクが予想した通りのものだ。
 クヴェン王子が落馬したその日、彼の馬にはヒュメル・ヴェロニカ、通称偽ヴェロニカ≠ニいう牛馬を興奮させるハーブが与えられており、クヴェン王子は意図的に落馬させられ命を落とした。そしてこれを指示したのは王家の滅亡を企む『天槍の娘』ことユニカであり、その証拠に、彼女はくだんのハーブを所持していた、ということだ。

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