天槍のユニカ



審問・青金冠(1)

第9話 審問・青金冠


 
 王城の中は夜が明けきらぬうちから騒然となっていた。
 王太子の指揮のもと、近衛隊が騎士、兵士、侍官等、二十名弱にものぼる人間を突如逮捕したのだ。罪状は明かされないまま、彼らは牢獄に繋がれた。
「後ろめたく思う必要はない。卿の告白は卿の身内のみならず王家のためにもなったのだから。その決意に免じて死罪を減じ、卿には一族そろっての永蟄居を命ずる。卿の代まで出仕は許さないが、将来は卿の息子が王家に仕えられる可能性もあるだろう。叛意を持たず、身を慎んで国王陛下よりお預かりした領地の管理を行うように」
 ローデリヒは答えず、一礼してディルクの執務室を出て行った。ディルクはその後ろ姿を見送りもしないが、そばで遣り取りを聞いていたラヒアックは悲痛な顔つきである。
「彼らが領地に入るまで警護を厳重にしてやれ」
「は……。しかし殿下、」
「これ以上言わせるな。近衛騎士に六名も欠員が出たんだ。このうえ卿にまで責任をとって辞めると言われては私が困る。それとも、やめてくれるなと私に泣いて懇願して欲しいのか?」
「決してそのような……」
 納得いかない様子だったが、近衛隊長は押し黙った。衛兵隊長とはえらい違いである。
 部下の不忠は兵の長であった二名の隊長にも責任があるのだろうが、人が心の中で何を思うかまでは支配出来ない。そうと割り切った衛兵隊長は、自分の部下にも逮捕者が出たことは、衛兵隊長の職をまっとうすることで挽回したいと申し出てきた。ディルクも部下がそれくらいしたたかであることを望んでいる。
 そのディルクが身柄を拘束させたのは、先月のユニカの襲撃と逃亡の協力者、クヴェン王子暗殺の罪をユニカに着せようという企てに関わった者、そして、テリエナにユニカを殺害するための毒を渡していた者達だった。近衛隊からはローデリヒ、ヴィクセルを除いて更に五名、衛兵隊からは六名、残りは侍官と下級の召使いで合計十八名。
 これだけ捕らえれば証言は充分に得られる。しかし、ユニカの排除を企む勢力の中枢には、まだ手を出していない。
 相手が貴族、とりわけ公職に就く者には配慮が必要という理由もあったが、この大胆な牽制に相手方が怯み、連携が鈍ることをディルクは期待した。

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