天槍のユニカ



王城の表裏(12)

「……過日、娘が衛兵を装う何者かに襲われ、けがを負った」
「な、」
 腰掛けたばかりの伝師は組もうとしていた脚を下ろして身を乗り出してきた。
「ユニカは!? 無事なんでしょうね」
「けがを負ったあと、伝師殿に手紙を出しておる」
「……あれか。そんなこと一言も……」
 歯噛みしながら座り直すと、伝師はしばらく足許を睨んでいた。やがてその鋭い視線を王に向ける。
「ユニカを襲った者はどうなったのですか」
「分からぬ。捕らえていない」
「やはりそうですか。あなたはいつもそうだ。いや、その点は王妃様も変わらなかったが。そんな状態のどこが『庇護』なんだ。あなたはあの子の復讐を利用して、あの子を自分の手の内に囲っているだけだ。王家にユニカを守るつもりがないなら、グラウン家には彼女を迎える用意がある」
「その必要はない。王家があの娘を引き受けるために、導主に戸籍帳の書き換えを依頼したのだ。マグヌス・グラウン導主は、それでご了承くださったようだが?」
 ユグフェルトの反論に、伝師は悔しげに眉根を寄せた。一族の上層部と自分の思いが食い違うことを突き付けられるのは、事実なだけに何よりも効果のある反論だった。
「そんなもの、あの子の意志一つで俺が覆してやる」
 初めから攻撃的なこの青年とは何を話しても穏やかな方向へは運ばない。ユグフェルトは溜め息を吐いた。昨日、ユニカが再び憂き目に遭ったことを報告するのを面倒に思ってしまう。
 まして彼女が貴族院の審問に召喚されたなどと知ったら、この若者はすぐにでもユニカを攫って教会に立て籠もってしまいそうだ。
 ユニカを取り巻く状況の説明はディルクに任せようか。王が王太子に面倒な仕事を押しつけようと考えた時。
 退出したばかりの侍従長が、一枚の便箋を携えて戻ってきた。どうやら伝師宛のようだ。
 侍従長から便箋を受け取ると、彼は途端に機嫌よく顔を綻ばせた。
「ひとまずは今後も王家の対応を観察させていただくことにします」
「どちらへ行かれる」
 席を立つ伝師に呼びかけると、彼は便箋をひらひらと振って見せる。

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