天槍のユニカ



王城の表裏(11)

 それに気づいたルウェルは、緊張感のない顔で首を傾げた。

 
     * * *

 
 昼食後、国王ユグフェルトは客人を迎えていた。
「パウル導主より、グレディ大教会堂へ着任のご挨拶を申し上げます」
 そう言って恭しく腰を折り、やがて顔を上げた青年は不遜な目をしてユグフェルトを見下ろす。
 三十代半ばの彼は、教会の伝令役として各地を行き来する『伝師』という少し特殊な僧侶である。日焼けした肌からは彼が多く旅に身を置いているのが分かる。この王都アマリア、そしてエルメンヒルデ城へも何度も足を運んでいる人物だった。
 しかし、彼が王城へやって来る目的はもっぱら王妃であり、ユグフェルトに対しては教会から命じられた言伝(ことづて)を届けに来るだけだったので、あまり個人的に話をしたことはない。
 それも去年までのことだ。彼は王妃の葬儀以来しばらくアマリアへ姿を見せることはなかったが、今は彼に応対する王妃がいない。窓口は否応なくユグフェルトということになる。
 導主からの贈りものを侍従長に渡すと、彼はすぐに高僧の声≠ニいう伝師の役目を終えて自分のために口を開いた。
「マグヌス導主より伺いました。どういうおつもりなのか教えていただきたい。ユニカをアヒムの戸籍から抜いたのはなぜです。王妃様がお亡くなりになってからもう一年も経つのに、どうして今さら。承認の日付を王妃様の生前に偽装することまで依頼なさったそうですね」
 根深い不信感を露わに、伝師の青年は吐き捨てるように言う。
 ユグフェルトとしてはあまり聞かれたくない内容だ。部屋にいた侍従長と書記官を視線だけで追い出し、彼は執務机から立ち上がった。伝師に椅子をすすめ、自分もその向かいへと移動した。
「新しい世継ぎを迎えたことで城内が不安定な状態にある。今までのように、宮に隠しておくだけではままならぬと判断したゆえだ」
「今までだって、ユニカの身の安全が保証されていたとは言えないと思いますが」

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