天槍のユニカ



王城の表裏(13)

「いつものように温室で待ち合わせることになりましたので、失礼します。後ほど王太子殿下にもお目通りを願いますが、お忙しいそうなので夕刻まで待たせていただきますね。では」
「待たれよ。温室へ? あの者には東の宮を出ぬようにと申しつけたはず。手紙は届けたか、ツェーザル」
「はい、確かに」
 叩頭する侍従長を眺めながら、伝師はふと違和感に駆られた。
 もう一度便箋を確かめる。
 いつも使われる紙とは少し違う。縁取りはスミレの花のモチーフで描かれ、ユニカが捺す一角獣の印も使われていなかった。代わりにサインがあるのでユニカからの手紙だということは紛うはずもないが。
「待て。東の宮? どういうことだ、ユニカが住んでいるのは西の宮のはずだ!」
 さすがに王の胸ぐらを掴むような真似はしなかったが、代わりに、伝師はユニカの手紙を届けてくれたツェーザルに掴みかかった。

 

 一方、同じドンジョンの中。
 昼食を終えたディルクは午後の休憩の最中だった。
 昨日のように自分の部屋へ戻って夕食をとれることは、このところ特にない。午後から働かねばならない時間が長いので、ディルクは昼食を取り始めたら二時間は動かないことに決めていた。
 が、やはり昨晩ユニカの言ったことが脳裏をちらついて休息に集中できない。昼寝用の大きなクッションを置いてソファの肘掛けに寄りかかってはみたものの、少しも眠気が湧いてこなかった。
 これなら彼女の顔を見に東の宮へ戻った方がよさそうだ。煙たがられるかも知れないが、昨夜の別れ際に――彼女がディルクから逃れるために打ち明けた秘密の真意を確かめたかった。
 ユニカの敵意は王家ではなく王一人に向けられているように感じるが、彼を苦しませるためにその周囲へ牙を向けたとも考えられる。
 もし彼女に掛かる疑いが真実なら、彼女の後ろにはあの女がいるかも知れない。
 ディルクは頭上に掲げて読んでいたユニカへの召喚状をテーブルの上に投げ捨て、身体を起こした。

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