天槍のユニカ



王城の表裏(3)

 彼に会うのはクレスツェンツの葬儀以来だから、一年と少しぶりだ。その間にも手紙の遣り取りはあったが、彼は方々を飛び回る忙しい身で、ユニカの手紙に返信があるのはいつも三、四ヶ月あとだ。
 先月出した手紙もあったが、返事よりも先に彼自身がアマリアへやって来るとは。
 私を驚かせようと思ったのかしら。だったらその効果は充分だ。
 最近面白くないことが続いていたので、ありがたい時期に来てくれたなと思った。たくさん話したいことがある。
 小雪の中、ユニカの足取りは軽い。フラレイとクリスタはそれを少し珍しそうに眺めながらついていき、ルウェルは諒承出来ないながらも、彼女らから離れるわけにはいかずにあとを追っていた。
 最初に気づいたのは、そのルウェルだ。彼は肩に担いでいた剣を左手に持ち直した。いつでもそれを抜き放てるように。
 がしゃがしゃと軽甲を揺らしてついてくる足音に、ユニカやフラレイたちもほどなく気がついた。足音の一団は彼女らの後方からやって来る。
 立ち止まり一団を振り返るユニカたちに追いつくと、先頭の騎士がおもむろに進み出た。
 深紅のマントがゆっくりと揺れる。ルウェルが肩から提げているのと同じそのマントは近衛騎士であることを示すものだ。彼の後ろに率いられる近衛の小隊を見て昨日のことを思い出し、ユニカはわずかに後退った。
「よぉヴィクセルさん、仕事?」
「ギムガルテ、そちらこそ仕事か? 王太子殿下はいらっしゃらないようだが」
「今日はこのお姫様の護衛が仕事でさ」
 ヴィクセルと呼ばれた壮年の近衛騎士は、口元だけを歪めて意地悪く笑った。彼の視線はそのままユニカの方へ滑る。
「貴殿も王太子殿下も、まだこの娘の正体を知らぬようだな。この娘は陛下に取り憑く魔女だ。そしてとうとう、王家に仇をなした」
 ヴィクセルが剣の柄に手を掛ける。すると彼の部下たちも、同じように抜剣の構えを見せた。
「おいおい、いきなり抜くのかよ」
「その者が大人しく身柄を預けぬと言うならな」
「身柄預けるって、捕まれってことか?」
 左手で己の剣の鍔を弾こうとしていたルウェルは、きょとんと目を瞬かせる。彼の反応などまるで無視して、ヴィクセルは部下たちを散開させた。

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