天槍のユニカ



王城の表裏(4)

「神妙にせよ、『天槍の娘』」
 四人を取り囲んだ近衛兵たちは、小隊長の合図で一斉に剣を抜き放った。

 
     * * *

 
 ローデリヒは何気なく窓の外へ視線を移した。少し薄暗くなったと思ったら、ちらつく程度だった雪が本降りになっている。しかし今日は風がないらしい。花びらのように平たく大きな雪が、重たそうにまっすぐ落ちてきていた。
 正午の鐘が鳴ってからだいぶ経った。きりのよいところで仕事を終えたら、ローデリヒは午後から城を降りることにしていた。
 家路に雪が降っていなければいいなと思いながら凝り固まった肩を動かし、彼は近衛隊長の印章を取り上げ、サインの上にそれを押しつける。
「ヘンリック殿はお元気にしているか?」
 近衛隊の紋章がくっきりと表れていることを確かめ、次の紙を手にしていた彼は再び顔を上げた。今度は、斜め向かいに座る上官に目を向ける。
「義父ですか? 妻の手紙によれば、相変わらず退役したお仲間を集めてゲーム三昧だとか……お元気なようですよ」
「まだお若いからな。また兵士たちの指導をお任せしてもよさそうだ。お暇な時にぜひと、伝えておいて貰えるか」
「冗談はおよしください。隊長のお声がかかったとあれば、義父は即日調練場まで飛んできます。一応は傷痍除隊した身です。とてもその伝言は承れません」
「いいや、口うるさくしてくださる先達の指導はよく効く。近衛を鍛え直せと殿下に言われたものでな。兵たちの訓練を見てくれる指導者が足りんのだ。ヘンリック殿にも参加していただきたい」
 ローデリヒは苦笑するだけで、ラヒアックの依頼には答えなかった。上官が署名した書類に黙々と判を押す作業に戻る。
 ラヒアックはその青年の横顔をしばらく眺めた。途中ラヒアック自身が席を外すことがあったとはいえ、半日仕事を手伝わせ観察した限りでは、ローデリヒに変わった様子はない。

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