王城の表裏(2)
「静かにして! 寒いのなら部屋にいればいいでしょう!」
「今日一日あんたにくっついてろって、ご主人様からの命令なの」
「だったら黙ってついてきて」
「ヤだね。はんたーい、出かけるの反対!」
立ち止まって静かになったかと思えば、ルウェルはまた剣の鞘で壁を叩きだす。子供が駄々をこねているようだ。
ユニカが寝ている内に彼と仲よくお喋りしていたフラレイの情報によると、ルウェルは王太子より七つも年上らしい。きっと嘘だ。あり得ない。この男が、養父が亡くなった頃と同じくらいの年齢であるなんて。
ユニカはしばらく唖然としていたが、帯剣した近衛兵が近づいてくるのに気づいて顔を伏せ、早足で先へと進む。
「あっ、こら!」
「どこから出ればいいの?」
「突き当たりを左の扉からお出になってください。そこから繋がる柱廊(コロネード)を行けば、城壁沿いで一番目立たないかと思います」
クリスタの指示通り、ユニカは見つけた扉を開けた。
ひゅっと冷たい空気が顔を撫でる。細かな雪がちらついているものの風はないし、薄曇りで空には太陽の気配があった。それでも、この天気では温室も寒いだろうなとユニカは思う。
だが、仕方がない。先方には先程、いつも通り温室で待つと書いた手紙を届けさせてしまったのだから。
よっぽど寒ければ西の宮へでも移動しよう。まだ戻るなと言われているが、きっと部屋を片付けているエリュゼがいるはずだ。大丈夫だろう。
「聞けよ。宮は安全なんだってさ。ここは近衛も独自で動けない場所なんだと、だからさ、」
「何を言っても無駄です。温室で人と会う約束をしているの。だから行きます」
「人ぉ? 男じゃないだろうな」
相手が男で何が悪い、とは思ったものの、ユニカは何も言わずに外へと足を踏み出した。
「世継ぎの王子様に靡く必要もないようないい相手なのかよ?」
「ただの父の知人です」
ぶっきらぼうに返事をしながら、ユニカはすたすたと柱廊を進む。
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