天槍のユニカ



王城の表裏(1)

第五話 王城の表裏


 東の宮から温室へ向かう道順が、よく分からなかった。けれど親切にも、王太子付きの侍女一人が案内を申し出てくれたので、昼食を終えたユニカは、生地の厚いストールを肩に巻き付けてこっそりと廊下の様子を覗った。こっそりするのは、宮の中にある召使いや、警備の近衛兵の視線を気にしてのことである。
 廊下に誰もいないタイミングを見計らって、ユニカは外へ出る。彼女の後ろには、ディルクの侍女クリスタ、フラレイ、そしてルウェルと続く。一番後ろの彼は、ユニカの外出が不満なようだ。
「なぁ、ほんとに外出るのかよ」
「………」
「外出禁止って、ディルクが手紙に書いてただろ」
「禁止とは書いて無かったわ。『しないように』とあっただけよ」
「じゃあなんで出るんだよ」
「用事があるんです。ついて来て下さらなくてもいいわ」
「そーもいかねぇの」
 それぞれに殴られた、脅かされた被害者である二人は、お互い図書館でのことを根に持っており、これ以上仲良くなれそうになかった。出来れば口を噤み、ルウェルを無視したいユニカだったが、彼はよく喋る。三回に一回はそれに応える形で、自然とユニカの口数も増えていた。
「嫌な目に遭ったってのに、昨日の今日でよく出歩けるな」
「………」
「あんた、『天槍の娘』なんだって? 敵も多いのは自覚してるんだろ? 大人しくしてろよ。宮の中は安全らしいし、外は寒いしさ」
 ぽつりと本音を洩らしたルウェルの台詞は、鮮やかに無視された。間で聞いていたフラレイとクリスタの方が気まずくなるけれど、ユニカは少しも構わないようだ。
「なぁって、無視すんなよ」
 ますます面白くないルウェルは、肩に担いで持っていた剣で、通り過ぎる大理石の柱をガンガン叩きながらついてくる。驚くべき行儀の悪さ。さすがにこの騒音には、ユニカも黙っていられない。
「静かにして! 寒いのなら部屋にいれば良いでしょう!」
「今日一日あんたにくっついてろって、ご主人様からの命令なの」
「だったら黙ってついてきて」
「ヤだね。はんたーい、出掛けるの反対!」
 立ち止まって静かになったかと思えば、またルウェルは剣の鞘で壁を叩きだす。子供が駄々をこねているようだ。
 ユニカが寝ている内に彼と仲良くお喋りをしていたフラレイの情報によると、ルウェルは王太子より七つも年上らしい。きっと嘘だ。あり得ない。この男が、養父が亡くなった頃と同じくらいの年齢であるなんて。
 ユニカはしばらく唖然としていたが、帯剣した近衛兵が近づいてくるのに気づいて顔を伏せ、早足で先へと進む。

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