天槍のユニカ



王城の表裏(1)

第5話 王城の表裏


 
 東の宮から温室へ向かう道順がよく分からなかった。けれど王太子付きの侍女の一人が親切にも案内を申し出てくれたので、昼食を終えたユニカは生地の厚いストールを肩に巻き付け、こっそりと廊下の様子を覗った。
 こっそりするのは、宮の中にある召し使いや、警備の近衛兵の視線を気にしてのことである。
 廊下に誰もいないタイミングを見計らって外へ出る。彼女の後ろにはディルクの侍女クリスタ、フラレイ、そしてルウェルと続く。一番後ろの彼はユニカの外出が不満なようだ。
「なぁ、ほんとに外出るのかよ。外出禁止って、ディルクが手紙に書いてただろ」
「禁止とは書いてなかったわ。『しないように』とあっただけよ」
「じゃあなんで出るんだよ」
「用事があるんです。ついて来てくださらなくてもいいわ」
「そーもいかねぇの」
 それぞれに殴られた、脅かされた被害者である二人は、お互いに図書館でのことを根に持っており、これ以上仲よくなれそうになかった。
 出来ればルウェルを無視したいユニカだったが、彼はよく喋る。三回に一回はそれに応える形で、自然とユニカの口数も増えていた。
「嫌な目に遭ったってのに、昨日の今日でよく出歩けるな」
「……」
「あんた、『天槍の娘』なんだって? 敵が多いのは自覚してんだろ? 大人しくしてろよ。宮の中は安全らしいし、外は寒いしさ」
 ぽつりと本音をもらしたルウェルの台詞は鮮やかに無視される。間で聞いていたフラレイとクリスタの方が気まずくなるけれど、ユニカは少しも構わない。
「なぁって。無視すんなよ」
 ますます面白くないルウェルは、肩に担いでいた剣で通り過ぎる大理石の柱をガンガン叩きながらついてくる。驚くべき行儀の悪さ。さすがにこの騒音にはユニカも黙っていられなかった。

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