天槍のユニカ


見えない流星(23)

「別に。ティアナというのは彼女の名前ですかね」
 謝罪し、再び歩き出した侍従長について行きながら、男は侍女の消えた曲がり角を振り返った。
 『先生』と呼ばれたことを気にしているようだ。
「ええ。王太子殿下付きの侍女をしている娘ですが、お知り合いでしたか」
「ティアナ、ティアナ、聞いたことがある気もするけど、珍しい名前じゃないからな。家の名は?」
「イシュテン伯爵家でございます。代々宮廷医をしている家系の」
「宮廷医……? ああ、なるほどね。あの<eィアナか。それで『先生』。分からないものだな、すっかり娘らしくなって」
 一人納得し、くつくつと笑う伝師をちらりと振り返り、ツェーザルはどういう意味かと無言で問いかける。
 相手はその視線に気づかなかったようだ。侍従長は答えを求めるのをあっさりと諦めた。
 ただ、厄介な時に厄介な客人が『天槍の娘』を訪ねてきたと思いながら、彼は伝師を王のもとへ案内した。








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