見えない流星(17)
それはこの先にある選択肢の一つに過ぎないはずなのに、彼女の首があの華奢な肩から落ちることを想像すると不意に思い出されるのだ。
泣きながら助けを求めて眠る、ただの寄る辺ない娘。黒檀の箱を抱き、縮こまりながら暖炉の炎を見つめていた心細い後ろ姿。
異能が宿るとはいえ、彼女はあまりにも普通の娘だった。
そしてさらに分からないのは、昨日王に渡された一枚の羊皮紙の意味。
百合の意匠の縁取りが施されたそれは、教会が発行する戸籍証書である。
ユニカのための盾である、と王は言った。彼の言うとおり、これほど強い盾はない。あらゆる謀略がこれの前に弾き返されるだろう。
だが、なぜ王はこんなものを用意したのか。
王が玉座を退く時、その命を貰う。それがユニカと王の約束であるということは、王は自分の命を狙う娘に贅沢な暮らしを与え、またこうして守ろうとしていることになる。
命乞いでもしているのだろうか。しかし約束を不服と考えているなら、異能の者とはいえ娘一人、排除することなど簡単であろうに。
また、ユニカも退位の時に命を貰うなどという時間のかかる約束をしている。
分からない。彼らは一体、お互いのことをどう思っているのだ?
考えながらまた手が止まっていた。カミルかルウェルでも部屋にいればぼんやりとしていることを指摘してくれるのだろうが、執務室にはディルクのほかに誰もいない。
自分が戸惑っていることに気づいてたディルクは、いら立ちを露わに書き損じの紙を握り潰した。
ライナが押収した物品もまとめて行方を暗ましており、ユニカにかけられた容疑の証拠がなんなのかも分からない。
トカゲの尻尾を掴んでいること以外、様々な点で後手に回っている。
ゲームは勝つからこそ面白いというのに。
早く次の鍵を手に入れて形勢を覆さなければ。
* * *
例によってユニカは昼近くに起き出した。
朝、きちんと起きるのは苦手である。エリュゼがいると無理に起こされることも多いが、朝食の代わりにお茶とヨーグルトを舐め、また昼まで寝ることもしばしば。
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