見えない流星(18)
今日は誰にも起こされなかった。
寝台の上で身体を起こしたきり、ユニカは動こうとしない。昨晩はよく眠れず輾転としていたせいもあり、髪がぼさぼさはねているのが見なくても分かる。それを手櫛で梳き、彼女は水差しに手を伸ばす。
ユニカは昨晩のことを後悔していた。
秘密をもらしてしまうなんて。
王が玉座を退く時、その命を貰う。ユニカの血を求めてきた王が提示した対価は、彼自身の命だった。
王は、いかに賢君と謡われ、政が善く人々に敬愛されていようと、ユニカには恨みの対象でしかない。
彼は八年前、ユニカを含め王国南部の人々を見捨てた。
王が賢君であるならば、国の善き父であるならば、あの時、なぜ疫病に襲われた二つの領邦に救いの手を差し伸べてくれなかったのか。
彼と王妃がともに動き、もっと早くペシラへやって来てくれたら……。
養父も、キルルも、村の人々も、あんな死に方をせずに済んだ。
ユニカも普通の子供でいられたかも知れない。
けれどユニカは普通ではいられなかった。
家族や人々を焼き滅ぼしたのもユニカ。
都合のよい恨みだということは分かっている。けれどどうしても、中央での混乱を収めるために養父たちを切り捨てたあの男が憎くて仕方がなかった。
関門を封鎖し、罹患者ごと病を王国の南部に封じ込めると決定したのが王だと知った時、本当はすぐにでも殺してしまいそうだった。
しかし王は言ったのだ。今、王が死ねば、世継ぎは幼く、国が乱れる。
だから待て、余の治世が終わるのを。
それまで王城で、そばで待つことを許す。暮らしを保証し、自由も制限しない。代わりに治世を全うするための、ユニカに宿る癒やしの力を分けて欲しい。
これは王とユニカが、お互いに諒承し合った対等な取引。
けれど部外者の王太子は、あれを聞いてどう思っただろう。
突き放す効果は充分にあったと思う。言い捨てて寝室へ逃げ込んだユニカをディルクは追ってこなかった。
もしかしたら、ユニカを客人扱いするのをやめ捕らえに来るかも知れない。そうなったらどうしようか。
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