天槍のユニカ



見えない流星(15)

 ディルクは努めて穏やかに言ったが、ライナは気を失うのではないかと思うほど緊張したまま返事もしない。
「そしてラヒアック。卿にも、任命責任を問う」
「は……」
 畏まって頭を垂れるラヒアックの声に、ライナはようやく目を覚ましたように顔を上げる。
「お待ちください! 隊長は関係ありません! 俺……私が隊をまとめきれなかっただけの話で、」
「君を小隊長に任じたのはラヒアックだ。それも、君の伯父、ベアケル将軍たっての願いをきいてということらしいな。優秀な人材の情報交換が出来る武官同士の繋がりを悪いとは言わないが、ラヒアックは友人の願いをきくという私情を挟み、能力のない者を役職に就けた。そしてその結果、陛下をお守りする近衛の秩序を乱した。責任は重い」
 さっきより強い口調でディルクに言われ、ライナは萎むように肩を竦めていった。
 慕っていた上官や伯父の面子を潰すことと、今の立場を失う予感が恐ろしく、また悔しくて堪らないことだろう。
「ライナ隊は本日付で解散。押収品を横領しようとした者は近衛を罷免した上で処罰する。残る隊員はひとまずほかの小隊へ振り分けろ。これはラヒアックに任せる。ライナ、君は小隊長の任を解く。そしてあらゆる任務に携わることを許可しない。私がよいと言うまで兵舎で待機するように」
 騎士解任を言い渡される――そう予想していたライナと、同じことを考えていたラヒアックは二人揃って目を瞠った。
 きょとんとする彼らを余所に、ディルクはもう手許の羊皮紙に目を落としている。
「殿下、あの」
「なんだ?」
「俺だけ、待機? どうしてですか? それが処分? なんで、俺だけ、お目こぼしなんて」
「お目こぼしか。いい言葉を知っている。だが、それがただではないということも覚かなくてはな」
「え……?」
 ディルクは宝飾品をユニカに返すため、ティアナが持ってきた化粧箱に手ずからそれを収めていった。

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