見えない流星(14)
流れ込んでくる冷気が風になって部屋の中をくるりと廻る。
「もし、あの娘にかかる疑いが真実であったなら、どうなさいますか?」
「あり得ぬ」
机の片隅ではらはらとめくれる紙を振り返り、ユグフェルトは吐き捨てた。
「あれは、余の頸以外に関心はない」
言い終わらぬ内に、ユグフェルトは窓の外へと手を伸ばした。
彼の指先に支えられている小さな杯。降り続ける雪のひとひらが、赤黒いユニカの血の中へと落ちて、溶ける。
消えた結晶を地に降り積もった雪の中へ還すように、王は杯を逆さまにした。
闇の中、ユニカの血は砕けるように風に散っていく。
盾はディルクに託した。
猶子にした甥の思惑は未だ分からないが、ユニカを守ることに関して彼は協力してくれるはずだ。
* * *
「殿下」
翌日の午前。
呼ばれて、ディルクははっとなった。目の前の少年に焦点を合わせる。
青ざめた顔で机の向かいに立っているのは、昨日ユニカの部屋へ押し入り、偽の命令を遂行してしまったライナだった。
ディルクの机の上には、小さいながらも細工を凝らした宝飾品がずらりと並べられていた。ライナ隊の近衛兵がユニカの部屋から押収して、自分の懐へ収めようとしていたアクセサリーの数々である。
隊員の一人が宝飾品を持ち去ってきたことをぽろりと漏らし、そこからラヒアックに詰問されたほかの隊員も耐えきれずにこれらを提出してきた。
都合が悪かったのはライナだ。ラヒアックがこの旨をディルクの前で説明すると、彼はみるみるうちに血の気を引かせていった。隊員たちの行いに少しも気づいていなかったようだ。
「偽装の命令書に従ってしまった件は君に落ち度があるとは言えなかったが、これは別問題だ。押収品を自分の懐に入れるのはただの盗み。隊員にはそれぞれ窃盗の罪を問う。彼らを監督できなかった君にも小隊長として責任をとってもらう」
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