見えない流星(1)
第4話 見えない流星
暖炉の薪が爆ぜる音でユニカは我に返る。
身じろぎすると王太子の腕が片方外れ、ユニカの右腕をさすりながら手の方へと降りてきた。彼はそこに巻かれた包帯を確かめるように撫でたあと、手を重ねてゆっくりと指を絡めてくる。
「どうして逃げるんだ」
「逃げるんじゃ、ないわ。大事なものが落ちているの。拾いたいだけです」
ユニカが答えると、ディルクは彼女の左肩に顎を乗せたまま身を乗り出して、二人の足許を確かめた。さらに身体が密着するが彼は少しも気にしていない。この体勢が当然であるかのようだ。
ものが落ちているのを見つけただろうに、ディルクはユニカを放そうとはしなかった。
「大丈夫か? 助けを呼んでいた、泣きながら」
慰撫するようなディルクの声音が、ざっくりとユニカの胸を抉る。彼の顔が視界の外にあるのが幸いだった。こんなに動揺した表情を、日に何度も他人にさらすわけにはいかなかったから。
「何ともありません。いいから放して」
ユニカは遠慮なく身をよじる。ディルクは諦めたようで、溜め息のような笑いをもらして腕を解いた。
「大丈夫なら、それでいいんだが」
涙を拭いながらユニカは手紙を拾い始めた。ディルクが気にかけてくれているのは分かるが、どんな言葉も返せない。よそから来たこの王子にはユニカの事情など関係ないのだから。
黙々と手紙を集めるユニカの隣に屈み込み、ディルクは一通の封筒を拾い上げた。
「これは?」
一文字さえ読む隙もなく奪い取ったので、彼にはそれが古い手紙であるということしか分からなかっただろう。ディルクの質問に答えず、ユニカは黒檀の手箱に手紙をすべて詰め込むと、それを抱えて立ち上がった。
「何かご用があっていらしたのではないのですか」
- 254 -
[しおりをはさむ]