天槍のユニカ



剣の策動(12)

 今はラヒアックからディルクへ、様々な権限の委譲が行われている。新体制作りのために命令権の所在があやふやなところもあった。
「今日の午前、西の宮にいずれかの小隊が強制捜査に入った。何か心当たりは? ないようだな」
 ラヒアックは顔を顰めながら驚いていたが、後ろめたいところがあるような影はその表情には見あたらない。
「確かに近衛兵だったのですか?」
「襲われたユニカの侍女と、プラネルト女伯爵の証言だ。いつわりはないと思う」
「殿下や陛下からのご命令でもなく?」
「私には覚えがない。陛下には、ユニカに関することでもあるからすぐにご報告して確認する。だが、陛下がユニカに兵を差し向けるとは考えられないな」
「……」
 自分のまとめてきた近衛騎士の独断。ディルクの言葉でそう思いついたのか、ラヒアックは絶句した。
「隊長さん、はっけーん。なんだ、ディルクも一緒か。ユニカは? はぐれた?」
 その時、硬直するラヒアックの後ろから現れたのは、彼の執務室を出てからドンジョンをうろついていたルウェルだった。いつもより三割り増しに渋面の近衛隊長をなんら恐れることなく、彼は親しげにラヒアックの肩を叩いた。
「えーと、北の廟にて負傷兵二名。至急、搬送のための人手をください。……要請します? まぁいいや、早くしてやらないと、あいつら凍死しちまうからよろしく」
 上官への報告に相応しい言葉遣いを試みたようだったが、ルウェルの挑戦はものの四秒で終わった。
 いつもの砕けた口調で言い終えてもラヒアックが注意してこない。そこでようやくディルクとラヒアックが何やら深刻な話をしていたのだと、ルウェルは気づいた。
「お説教中だった?」
「いや。いいかラヒアック、西の宮へ踏み込んだ小隊を探せ。卿が案じる近衛騎士の独断である可能性よりも、私は捜査命令の偽造を疑う。小隊を特定し、事情を把握するんだ。ある程度目星はついているが……」
「その目星だけどさぁ。ユニカの部屋を荒らしたやつ、俺見つけちゃったかも」
 ルウェルは二人の間にずいと腕を差し出した。握っていた掌を広げると、そこには縮れてしまった羽毛が一枚乗っていた。
「ライナの肩にひっついてた。これ、ユニカの部屋に落ちてた羽根じゃねぇ? 水鳥の羽根だし、クッションの中身っぽい」

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