剣の策動(11)
「私にも事情があったんだ。それに関わることでいくつか聞きたい。今日の近衛小隊の配置はどうなっていた? 内郭に配置された隊だけでいい」
「ボニファーツ隊、エゴン隊、グンディーン隊、ハルトヴィヒ隊が、ドンジョンと各宮の警護をしております」
ラヒアックの答えはディルクが記憶していた通りのものだった。
今日、内郭の警備担当で非番あるいは控えの小隊はほかに六つ。エリュゼとフラレイの話では、若い騎士の率いる小隊がユニカの部屋へ押しかけてきたそうだ。
若い騎士、そして隊持ち≠フ。
といえば、ディルクはすぐにある顔が浮かんだ。閲兵の時、いつも不満げにディルクを睨んでいるライナである。
剣の腕を買われて近衛騎士になったという彼は、外務副大臣の三男坊だった。若くして小隊を任された自信や近衛騎士という身分を誇示するところがあった。反抗的な相手、それがたとえ武器を持たない娘であっても、力でねじ伏せるような真似をする可能性は大きい。
「配置外の小隊に、西の宮を捜査するよう命令を出したか?」
「いいえ。今日日、あちらに住んでいるのが『天槍の娘』だけとはいえ、宮は王家の方々のお住まい。陛下や殿下のご指示やお許しがない限り、臣下が立ち入ってはならない場所です」
「卿なら、不本意でもその理(ことわり)を侵すことはないな」
王太子が何を言いたいのか分からないラヒアックは、ディルクが一人納得し、また考え込むのをいらだたしげに見下ろしてくる。
(ラヒアックが私的に隊を動かすとは考えにくいし、ならば陛下が……)
しかし、それも考えられない。
王は曲がりなりにもユニカを大事にしている。彼女を軟禁するわけでもなく、城の中を行き来する自由を認め、衣食住も保証して対価≠得ている。
そしてユニカと王には直接のやり取りがあった。何かあれば、王は兵を差し向ける前に自ら彼女に会うはずだ。
残る可能性は、捜査が近衛騎士の独断であるか、あるいは捜査というのは名分で私情の交じった嫌がらせ。これを実行したというのならかなりの度胸があって驚くほどのばかだといえる。
もう一つは、命令の偽造――。
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