天槍のユニカ



剣の策動(13)

「ライナだと?」
「やはりそうか」
「殿下、どういう意味です。なぜライナをお疑いか!」
「隊持ちの騎士で一番若いのはライナだからな。侍女たちの証言に一致する」
 彼なら余計な暴力も振るいかねない、とは言わないでおくが、ディルクは羽毛をつまみ上げて意味深に溜め息を吐いて見せた。
「この羽根一枚で彼の隊だと決めつけるわけにはいかないが、まずはライナに話を聞くのがよさそうだな。確かめるんだ。卿になら素直に話すだろう」
 羽毛をラヒアックに渡すと、ディルクは踵を返した。
「権限委譲の隙を利用されている。命令を下したのが誰なのか必ず突き止めねば」
 近衛隊は王家の盾であり剣。その乱れは、王家の統帥権の乱れだ。これは必ず正さなくてはならない。
 ディルクが近衛長官という新たな椅子に座った意味は三つあった。
 一つはディルクが次に玉座に座る者であるということを明確に示すため。二つには、外から来たディルクなら、軍の再編をしがらみにとらわれず行えるから。三つには、ラヒアックをはじめとする武門派貴族が長らく指揮してきたシヴィロ王国常備軍の支配権を王家が取り戻すためだった。
 王家の兵は王家のもの。王家の命によってのみ動く。
 これを覆すことは罷りならないと示すよい機会となるかも知れない。ディルクの指揮のもと、ラヒアックが動くことは。
「午後からの視察には一人で行く。卿は私が戻るまでに小隊を特定し、隊長の騎士を執務室で待機させておくように。陛下へのご報告には、私が今から行ってくる」
「御意……」
「その前に、凍死しそうなの二人の搬送な?」
 立ち去るディルクに向けて叩頭していたラヒアックは、緊張感のない声音でそう言うルウェルを睨みながら身体を起こした。


     * * *

 


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