天槍のユニカ



剣の策動(7)

 しかし違った。ライナの襟とマントの間に指を突っ込み、ルウェルは何かを摘み取った。
 彼の手にあったのは一枚の羽毛だ。
 ユニカの部屋に飛び散っていた羽毛――
「ふーん、お前か」
 先ほど見た光景を思い出しながらルウェルは剣を鞘に収め、羽毛をくるくる回して弄ぶ。
「ふーん」
 もう一度じろりとライナを睨め付け、彼はそのまま執務室を出て行った。
 圧迫感から解放されたライナは、途端に大きく息を吐いてその場にうずくまる。そして気遣わしげに肩を叩いてくれるローデリヒに当たり散らした。
「なんなんだあいつ!! あんな女≠チて、ちょっと口が滑っただけだ! それに、公妃はそう言われても仕方がない女だろう!」
「黙れライナ。今のはお前が悪い。だから言ったんだ。日頃の悪態はいつか取り繕うことの出来ない失態を生む。お前が王家に忠誠を誓った騎士であるなら、シヴィロの王女であった公妃殿下にも敬意を払わなくてはいけない」
「くそっ、分かってるけどさ」
「……ルウェル殿は、公妃様がウゼロ大公家へ降嫁なさった時からおそばに仕えている。王家に誓いを立てても、自分を騎士にしてくれた主君を貶されて怒るのは当然だ。今日はもう、反省しながら大人しくしていることだな」
 ローデリヒの言葉に、どれだけのフォローと思いやりがこめられていたかライナは気づいていないだろう。相手の口調が厳しいとすぐに叱られた気分になるからだ。
 案の定、彼は面白くなさそうに同僚の手を振り払うと、肩を怒らせて出て行った。
 やれやれと溜め息をつきながら、ローデリヒは投げ出したペンと、それを手に巻き付けていた帯紐を拾い上げる。
 右手は痺れ、動くがものを握ることがほとんど出来ない。パンを千切るのも一苦労だ。
 まさか、ペシラの太守館で弁官を勤めていた父に教わっていた会計の知識が役に立つとは、考えても見なかった。
 剣で生き、剣を失う時は死ぬ時だろうと思っていたから。
 ローデリヒは未決済の籠に入れたライナ持参の命令書を手に取ると、それを歯と左手を使って二つに破き、とろとろと暖かく燃える暖炉の中に放り込んだ。

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